企業も社長も「長寿」な日本 見て見ぬフリでは済まない「事業承継」のポイントとは?:「普通」の受け皿をなくさないために(3/4 ページ)
中小企業が多いことで知られる日本だが、実は「長寿」企業も多い。社長の高齢化も進む中、事業承継が大きな課題となりつつあるが、ポイントはどこにあるのか。
まず、一つ目のポイントは「後継者選び」です。
事業承継のパターンは、子供をはじめとした親族を後継者として任命する「親族内承継」、役員や社員などを後継者として任命する「親族外承継」、そして経営権まで他の事業者に譲渡する「M&A承継」の3つが主なパターンとなりますが、それぞれ異なった難しさを抱えます。基本的な事項を押さえておきましょう。
(1)親族内承継
これは、最も自然な事業承継のパターンといえるでしょう。オーナーである創業家の親族への承継は、社員にも受け入れやすくオーナー経営者とのコミュニケーションも取りやすいので、経営理念の伝承や後継者育成もしやすい面があります。しかし、後継者との距離が近いことで大塚家具のような「お家騒動」に発展してしまうケースもあります。
(2)親族外承継
親族以外の役員や社員、または社外人材に承継するパターンです。親族内に適任の後継者がいないが、組織の形をそれほど大きく変えずに承継できることがメリットです。しかし、適任の後継者探しは難航するケースもあるようです。
(3)M&A承継
事業承継の難しさから、近年徐々に広がってきているパターンです。親族内外に後継者がいない場合に採用され、事業の相乗効果を期待できる場合があるのがメリットです。しかし、双方の組織文化の違いなどで効果が出ない場合もあります。
18年に東京商工会議所が行った事業承継の実態に関するアンケートでは、近年親族外承継の割合が増加傾向にあることも明らかになっています。団塊世代の経営者が引退の時期を迎えているにもかかわらず、少子化が進み親族に承継候補がいないことが影響していると思われます。そして、M&Aという手法は、まだ浸透していません。後継者を選ぶ選択肢は、かなり限られているといっていいでしょう。
一方で、ミレニアル世代やZ世代のデジタル世代の跡継ぎが徐々に出てきています。筆者が人事アドバイザリーを務めている茨城県の自動車メーカーも、外部経験を積んだ上で入社した創業一族のご子息が中心になり組織改革を進めています。デジタル世代の後継者が新しい時代を担うことで、大きなイノベーションが期待できるのではないでしょうか。
もう一つのポイントであり、筆者が最も難しい課題だと感じているのは「組織づくり」です。
長寿企業の多くは「身の丈経営」を行うことで事業を安定させており、そのため社員が安定志向に陥りやすい環境にあります。アットホームな組織文化も醸成されており、社員の意識が内に向きやすく、井の中の蛙になってしまっていることもあるでしょう。長寿企業のメリットであった歴史と伝統が、逆に変化を阻む要因となり、成長への足かせになっていることがあるのです。新たな環境を受け入れ変化することを、知らず知らずのうちに社員が忘れてしまう。筆者は、このような状況で後継者が苦労するケースを多く見てきました。
ほとんどの後継者は、先代の培ってきた良い文化を踏襲しつつ、硬直化した組織づくりに向き合おうとしています。しかし、せっかく課題解決に動いても打ち手を間違えたり社員の反発を受けたりして苦労する後継者はとても多いのです。よくある失敗するケースを挙げてみましょう。
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