「小さいものは淘汰される」 米国スーパーマーケット市場で進む“食の砂漠化”:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(1/3 ページ)
米国のスーパーマーケット業界では、大手チェーンと独立系のパワーバランスが崩れ、さまざまな問題が起きています。背景には、独立系スーパーマーケットが不利な立場を強いられてしまう不公平な市場構造があり、これが「食の砂漠」を生み出しているのです。
連載:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線
小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。
米国のスーパーマーケット業界では、大手チェーンと独立系のパワーバランスが崩れ、さまざまな問題が起きています。
私が住むシリコンバレーでは、新型コロナウイルスの感染拡大中に近所の独立系スーパーマーケットにいくと、生活必需品であるトイレットペーパーやキッチンペーパー、ティッシュなどが大抵売り切れていました。またはトイレットペーパーロール一つで3ドルという価格設定に驚くこともありました。
需要過多になっているから仕方ないと思い、車で少し遠くまで足を伸ばして全米展開している大手チェーンのセイフウェイ(全米の小売業ランク10位)やウォルマート(同1位)まで行くと、トイレットペーパーが山積みになっていて救われた気持ちになったのを覚えています。
このように独立系スーパーマーケットと大手小売チェーンとの間で商品の供給力に差が生じてしまう背景には、独立系スーパーマーケットが不利な立場を強いられてしまう不公平な市場構造がある──という指摘が、National Grocers Association (NGA、全米小売協会)の会議で提出されました。協会員が連邦政府の議員に対して法改正の重要性を訴え、ニュースになりました。
NGAの発表によると、ビッグボックスリテーラー(大手小売チェーン)による反競争的購買力は独立系スーパーマーケットを不利な立場に追いやるだけではなく、消費者に対しても、より安い価格の商品を手に入れるために、距離があるにもかかわらず大手小売チェーンへの移動を迫るなどの悪影響を及ぼすことになりかねないといいます。
なお、NGAとは1600社以上の独立系スーパーマーケットを代表する組織で、加盟店舗数は全米で約9000店にのぼります。また、これらのスーパーマーケットとその卸売業者は、米国のコミュニティーでは重要な役割を果たしています。
そんなNGA会長兼CEOのグレッグ・フェラーラ氏は記者会見で次のような声明を発表しています。
「NGAの会員は、一部の大手小売チェーン店、通称『パワーバイヤー』による支配が拡大する市場での競争を強いられています。パワーバイヤーは莫大な経済力とそれに伴う市場への影響力を利用し、取引条件を自社に有利となるようコントロールしたり、サプライヤーから優先的に物資を仕入れるといった方法で市場を支配しています。これにより、独立系スーパーマーケットは不利な市場構造に追いやられ、苦境に立たされているのです」
米国のスーパーマーケット業界はトップ4社が40%の売り上げを占める
NGAの声明を理解するには米国のスーパーマーケット業界を理解する必要があります。以下の図は、2020年の米国のスーパーマーケットの売り上げを表したものです。
これによると、ウォルマートが約3410億ドル(日本円で37兆円以上)と、圧倒的な売り上げを誇っていることが分かります。
また、先述のNGAの発表によると、21年現在、消費者の生活品に対する消費の「4ドルのうち1ドルはウォルマートで行われている」ということです。このように、米国のスーパーマーケット市場は日本のように地域密着型の中規模スーパーが多く存在する市場とは少し異なる構成であることがお分かりいただけたでしょうか。
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