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トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化する理由 キャリア採用増やし、働き方や風土を変えていくキャリアと新卒比率を半々へ(1/2 ページ)

トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化している。キャリア採用に注力して、今後1年間で現在の数百人規模から倍に近いレベルにまで増員する計画だ。狙いをトヨタの人事部に聞いた。

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 トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化している。キャリア採用に注力して、今後1年間で現在の数百人規模から倍に近いレベルにまで増員する計画だ。将来的にはキャリア採用で入社した社員の比率を、新卒採用と同程度まで引き上げる方針だという。


トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化している(同社のWebサイトより)

 採用戦略を転換したきっかけは、豊田章男社長が2018年1月に打ち出した「自動車会社からモビリティ・カンパニーへの変革宣言」。自動車の生産をハードウェアを起点にした方式から、ソフトウェアファーストへと移行させる中で、デジタル人材の確保を急いでいる。

 トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアを確保するための戦略や、その背景について、同社人事部人材育成室 採用グループの山口勇気氏と、人事部人材育成室 採用グループ元木洋介氏に話を聞いた。


山口勇気(やまぐちゆうき) 人事部人材育成室採用Gグループマネージャー。東北大学経済学部を卒業。2005年にトヨタへ入社。国内販売事業部門で販売店収益、車種販促、需給・販売計画に従事。2021年より現職

元木洋介(もときようすけ) 人事部人材育成室採用G主任。名古屋工業大学大学院を卒業。2010年にトヨタへ入社。車両系の生産技術を経験し、2018年人事へ異動。新卒採用業務を経て現在はキャリア採用業務を中心に従事

「100年に一度の大変革期」に採用戦略を転換

 「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジに向けて」と題した19年12月の豊田章男社長のメッセージが、トヨタ自動車のWebサイトに掲載されている。これまでは自動車産業という確立したビジネスモデルの中で成長を続けてきたものの、技術革新によって車の概念が変わろうとしている中で、ビジネスモデル自体を変えなければならないと決意を述べたものだ。このメッセージの中に、「人づくり」についての一節がある。

 「『モノづくりは人づくりから』トヨタは常にこの考えのもと、人材育成に取り組んできました。100年に一度の大変革の時代、私は改めて、トヨタの『人づくり』にとことんこだわっていきたいと思います」


トヨタ自動車の豊田章男社長のメッセージ「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジに向けて」(同社のWebサイトより)

 この言葉が、採用戦略の転換という形で本格的に具現化され始めている。一つは、20年11月に明らかになった技術系新卒採用での学校推薦の廃止だ。モビリティーサービスの普及に向け、より多様な人材から選ばれる会社に変わるため、22年春以降の新卒採用から学校推薦を廃止した。事務系と同じように自由応募に変えたのだ。

 もう1つが、ソフトウェアエンジニアの採用強化だ。トヨタ自動車は「CASE」(Connected=コネクティッド、Autonomous/Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化)と呼ばれる車の概念を変える技術革新に対応するために、ソフトバンクとの共同出資会社の設立や、NTTとの業務資本提携などを進めてきた。それだけではなく、20年からはキャリア採用によるソフトウェアエンジニアの確保に大きく舵を切っている。人事部の山口氏は、採用計画を次のように説明する。

 「従来の車の作り方は、ハードウェアを起点に開発して、次にソフトウェアという順番でした。ところが現在では、ソフトウェアの進化のスピードがハードウェアの進化を上回ってきました。さらに、お客さまのニーズが多様化し、車もスマートフォンのアプリのように多様なサービスを提供する必要が出てきたことで、作り方がソフトウェアファーストに変わってきています。

 そのためにソフトフェアエンジニアをはじめとするデジタル人材が必要になっています。正式な人数はお伝えできませんが、現在の数百人規模を今後1年間で倍近いレベルにまで増員する計画です。ただ、現状ではまだまだトヨタにソフトウェアエンジニアの活躍の場があり、人材を求めていることが伝わっていないと反省しています」


トヨタ自動車は、ソフトウェアエンジニアを対象としたオンラインイベント「TOYOTA Developers Night」などでキャリア採用の強化を図っている(以下写真は「TOYOTA Developers Night」より)

4月5日に発表した新型GR86(日本仕様)(トヨタ自動車のリリースより)

電機メーカーの技術者をターゲットにした求人広告

 トヨタ自動車ではソフトウェアエンジニアのキャリア採用の募集を、20年春から本格的に始めた。山口氏によると、求めている職種は多岐にわたるという。

 「大きく分けて4つの部門で人材が求められています。車のインタフェースやディスプレイの部門で活躍するのはWeb系のエンジニア。状況を認知しデータ処理する部分にはクラウド系などに強いエンジニア、全体のシステムを構築する職場には、システムアーキテクトが不可欠です。操作による指令を制御や出力に変えていく分野には、組み込みを担当するエンジニアが必要で、現在それぞれの部門で求人を出しています。

 各職場からは、基礎を身につけていて、周りに教えることができるような方を求める声が上がっています。プロダクトマネジャーや、プロジェクトマネジャークラスの方ですね。さまざまな部署で満遍なく人材を求めている状況です」

 キャリア採用を強化していることで、人材の幅は広がりつつある。以前は他の自動車会社や、自動車の開発製造を受託するOEMメーカー、それに部品メーカーからの転職が中心だった。現在ではIT系や通信系の企業や、コンサルタントから転身する人もいるという。

 その中でもトヨタ自動車が特に注目しているのが、電機メーカーに勤めるエンジニアだ。17年夏、東京都立川市と神奈川県川崎市を結ぶJR南武線の駅で、トヨタ自動車が出した求人広告が話題になった。駅に張り出されたポスターに、沿線に拠点がある東芝、富士通、NECなど、電機メーカー大手で働く人たちに向けたメッセージが大きく書かれていた。

 『えっ!? あの先端メーカーにお勤めなんですか! それならぜひ弊社にきませんか。』

 『ネットやスマホの会社のエンジニアと、もっといいクルマをつくりたい。』

 『シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい。』

 この広告を展開した背景を、人事部人材育成室採用グループリーダーの元木洋介氏は次のように説明する。

 「大手の電機メーカーで部品の製造に携わっているエンジニアは、当社にはないスキルをお持ちです。南武線沿線は自動運転などの領域に必要な人材が集結しているエリアだと考えて、ターゲットを絞って広告を出しました。

 当社にないスキルを持っていれば、活躍する土壌はたくさんあります。入社から数年でチームを引っ張っていく存在になっている人も珍しくありません。ソフトウェアに関するコアの技術を持っていれば、当社では無限の可能性があると考えています」


「TOYOTA Developers Night」の登壇者からはシステムの開発の状況や、現場の雰囲気が詳細に語られた。社内の情報をオープンにする大胆な試みだ
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