トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化する理由 キャリア採用増やし、働き方や風土を変えていく:キャリアと新卒比率を半々へ(2/2 ページ)
トヨタ自動車がソフトウェアエンジニアの採用を強化している。キャリア採用に注力して、今後1年間で現在の数百人規模から倍に近いレベルにまで増員する計画だ。狙いをトヨタの人事部に聞いた。
キャリア採用を通じて社内の文化を変えたい
ただ、前述した通り、現状では応募が思うようには増えていないという。その理由を山口氏は、ソフトウェアエンジニアが活躍できる場所があることを、応募者に十分に伝えきれていないのではないかと分析する。
「当社に対して、ハードウェア中心の会社だというイメージがどうしても抜けきれていない部分はあると思います。また、ソフトウェアエンジニアの方は大多数が首都圏で働いていますので、開発の拠点が愛知県豊田市にあることも、応募が増えない要因になっていると考えられます。
開発拠点の問題をクリアするために、リモートワークの導入を進めるなど環境整備を進めています。処遇については、キャリア採用は個別に決めさせていただいています。市場価値の高いエンジニアにあわせた処遇とできるよう、人事制度も柔軟に見直しを図っています」
キャリア採用を増やしていくために、応募者に対して細やかな対応もしている。入社前については、人事担当者が応募者の希望などを確認した上で面接官に展開。面接とは別にカジュアルな面談を実施して、応募者の希望する仕事と、入社後の仕事との間に乖離(かいり)が起きることを防いでいる。
また、入社後にはメンター制度を用意。キャリア採用の社員にプロパーの社員がついて、個別にフォローをしている。山口氏によると、今後もキャリア入社者へのサポートを強化しながら、キャリア採用の社員比率を高めていくという。
「現在は全社員に占めるキャリア採用の比率は約3割です。これを将来的には、キャリア採用の比率を新卒と同じ割合になるまで引き上げていく方向です。どちらかといえば当社はこれまで新卒文化でした。キャリア採用の方が増えることによって、謙虚に学ぶ姿勢や、ニュートラルに物事を見る姿勢が、社員にも広がると考えています。キャリア採用を拡大し、入社者の方に活躍いただくことで、社内の文化や風土を変えていきたいと思っています」
キャリア採用拡大のために情報をオープンに発信
キャリア採用を強化する一環で、これまでにはなかった取り組みも始めている。それは、ソフトウェアエンジニアを対象としたオンラインイベント「TOYOTA Developers Night」の開催だ。パーソルイノベーションが運営する組織構築支援サービス「TECH PLAY」に登録する会員約16万人を対象に、トヨタ自動車で働くソフトウェアエンジニアが、どのような開発に関わっているのかを自ら情報発信している。
イベントは20年10月から21年2月にかけて、これまで4回開催し、延べ3600人の参加があった。登壇者からはシステムの開発の状況や、現場の雰囲気が詳細に語られ、反響も大きいという。社内の情報をオープンにする大胆な試みともいえるが、山口氏は「ソフトウェアエンジニアに興味を持ってもらうため」と話す。
「オンラインイベントの開催は、私たちの取り組みを知ってもらうことが目的です。採用につながるきっかけのようなものですね。今はSNSをはじめ、いろいろな方法で情報を集めることができます。変に隠しても仕方がないですし、むしろ積極的に社内の状況をオープンにしていこうと考えています」
トヨタ自動車の取り組みを伝える、もう1つの手段が、テレビCMとWeb、それに紙媒体を融合させたオウンドメディアのトヨタイムズだ。豊田章男社長のメッセージがコンテンツの柱になっている。
トヨタイムズでトップのメッセージを発信し、オンラインイベントで現場で働くソフトウェアエンジニアひとりひとりに光を当てる。山口氏はこの2つの情報発信によって、トヨタ自動車に起きている変化を感じてもらえればと話している。
「トヨタイムズとオンラインイベントの両方を見ていただければ、当社の今を多面的に知ってもらえるのではないでしょうか。情報発信を通じて、トヨタ自動車の価値観に共感していただくことが、興味を持っていただく入口だと思います。その興味が応募につながって、お客さんを幸せにし、世の中を変えていきたいという高い志を持った方に、お越しいただければと考えています」
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