5秒で身体をスキャン、ぴったり下着提案 ワコールがすごすぎるデジタル店舗を作る理由:3D計測・AIレコメンド・アバター接客(3/3 ページ)
“下着選び”に、デジタルトランスフォーメーションが起きている。インナーウェア大手のワコールが、3D計測・AIレコメンド・アバター接客と最新技術を盛り込み、デジタル化した店舗を作っている理由とは?
97年は消費税が3%から5%に上がり、家計における通信費と衣料品費の支出額が逆転した年だった。今に続く新時代の企業が続々と台頭する一方、時代についていけず衰退を始めた企業が続出したのもこの時期だった。
97年にAmazonやNetflix、98年にはスタートトゥデイ(現ZOZO)、99年にはアリババが創業した。98年にはユニクロ原宿店がオープンし、ファストファッションブームの火付け役となった。
下山氏は「これまでの成功体験によって、百貨店や量販店といったチャネルを通じた売り方だけを見続けていた状況がありました。これを見直し、新しい戦略を仕掛けるべく大きく考え方を変えたのが2016年でした」と話す。
一つの商品を大量生産し、短期間に多くの客に間接的に届ける販売チャネルから、顧客と直接的なつながりを持ち、バリエーションに富んだ商品を提供し、人生を通して長くつながるオムニチャネルへ、思想を切り替えたのだ。
これをワコール社内では「一人一人の顧客と『より深く、広く、長く』つながること」とかみ砕いて標語化している。このような思考の転換は、デジタル化が進んだからこそできるようになったことだ。
この考えから、3D smart & tryやパルレは全て無料で提供している。接客時間やシステムへの投資は大きいが、それでも「ワコールをいい会社だなと思ってもらえることが大事」と篠塚氏は意気込む。
旗艦店である東急プラザ表参道原宿店は、商品である下着ではなく、椅子を中心にしたレイアウトとなっている。その理由も「お客さま中心の店舗づくり」を意識しているからだという。3D smart & tryやパルレを利用したからといってその場で必ず購買につなげたいと考えるのではなく、「自分に本当に合ったものが知りたい」という顧客のニーズに応えることで、その後のワコール製品との長い付き合いの参考にしてもらう考えだ。
実際に顧客は自身の体形を詳細に知ることで、後日ECでの商品選びも簡単になる。同社のEC化率は、自社EC・他社EC合わせて15%で、アパレルの主要メーカーに比べて高い比率だ。
下山氏は「ECは便利な手段だが、手から手へというタッチポイントは守りたい」と話す。同社の全国2800の実店舗では約3500人の販売員が働いており、高いフィッティングや接客技術から「神の手」と称賛される販売員もいる。
「デジタル化が進むほど、リアルでの体験価値は高くなると考えています。店舗だけでも、ECだけでもなく、ECと新しい店舗体験を組み合わせることで、生涯に渡り顧客とつながれるサービス網が作れると期待しています」(下山氏)
3Dボディースキャナーシステムのプラットフォーム化を目指す
さらに、同社は精密な3Dスキャンのノウハウを武器に、将来的に3Dデータのプラットフォーム化と3D smart&tryの多角化を目指している。その第一歩として伊勢丹新宿本店へ同社の3Dボディースキャナーを提供し、婦人服のレコメンドサービスを開始した。
伊勢丹では3Dで計測したデータに基づき体形タイプを27種類に分類し、利用客に似合う洋服をスタイリングする。利用者は多くの店舗を回る時間を省きながら、自分に合ったスタイリングの提案を体験できる。
同社の測定の技術は下着にとどまらず、医療やフィットネス業界などへの展開を見据えている。テクノロジーとリアルを融合させることで、地方都市の店舗の不足、販売員の不足の解消も見込める。アバター接客は家からでも担当できるため、働き方改革も期待できる。同社は今後100台の3Dボディースキャナー導入を目指している。
ワコールは店舗のDX化を進める一方、リアルな場所での接客も大切にしていくという。今後、家で測定を終わらせることもできるかもしれないが「お客さまと企業をつなぐ場づくりにも大切な価値がある」と下山氏は話した。
※【編集履歴:2021年4月8日午前10時00分 初出時の記載に誤りがあったため、一部表現を改めました】
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