快進撃を続けるアイリスオーヤマ、家電開発部長に聞く「なるほど家電」の作り方:家電メーカー進化論(5/5 ページ)
アイリスオーヤマの家電といえば、シンプルな機能とリーズナブルな価格帯に加え、他メーカーにない便利機能を搭載した「なるほど家電」が特徴だ。この「なるほど」機能の発想はどこから出てくるのか。アイリスオーヤマの家電開発部をまとめる執行役員 家電開発部部長 原英克氏に話を聞いた。
開発者が企画から開発までを担うメリット
――家電分野への本格参入から12年。家電メーカーとしては短期間で知名度や売り上げがアップしています。ここまで問題や障害はありましたか。
もちろん問題はありました。当社はもともと家電を開発する専門エンジニアがいない会社でしたので、アイデアがあっても技術的に具現化できないことが多く、10年前半はかなり苦労しました。その時期が日本の家電メーカーに元気のないタイミングと重なり、他社さんで経験のある方をちょうど採用できたため、我々のアイデアに技術力をクロスマッチさせることができるようになりました。現在、当社で家電開発に関わっている人数は120名ほどいます。このうち約半分が他社さんで経験のある開発者です。
――大手メーカーの場合、マーケティングや企画、開発などの部門が分かれていることが多いですが、アイリスオーヤマでは、これら全てを開発部が行うと聞いています。他社からの開発者はこの違いに戸惑ったりしませんでしたか。
当社の企画は、企画やマーケティングとしての専門性を求めているわけではなく、開発者それぞれが感じた生活の不便を解消するという、ユーザーインで行っています。ですので、専門性よりもむしろ、自分が欲しいものが何なのかが分かることが重要だと考えています。
さらに、他社出身の開発者からは、大手メーカー時代は「来た企画を実現するために試行錯誤していたが、当社では自分が作りたいものをゼロから自由に企画して作れる」という声もあります。大手時代は試せなかったアイデアを実現できると喜ばれることが多いですね。ですので実際には、戸惑うというよりは、すんなり入っているという印象です。
――アイリスオーヤマが、他社にはない発想で家電開発できる理由はどこにあると思っていますか。
アイリスオーヤマは、もともとプラスチック製生活用品のメーカーでしたが、実は、現在の家電開発スタッフの中には、その頃に日用品を開発していたスタッフも多いです。私もアイリスオーヤマ入社当時は、プラスチック製園芸用品の開発などに携わっていました。こういった家電以外の生活用品の開発経験が、家電の「なるほど」を発想するのにも意外と影響していると感じます。
当社はもともと、家電開発の経験がない会社だったので、もちろん家電参入への不安も最初はありました。家電は電気を使うため「安全性の担保」は最重要項目ですが、それ以外では、我々の求める製品像とお客さんが求める製品像は、実は同じなのではないかと感じています。我々がプラスチック生活用品のメーカーであった頃からの「ユーザーイン」という考えを、さらに広げられる接点が現在の家電事業だと思っています。今後がますます楽しみです。
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