内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/8 ページ)
ホンダは新目標を大きく2つに絞った。一つは「ホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」であり、もう一つは「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」。そして何より素晴らしいのは、その年限を2050年と明確に定めたことだ。ホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。
Q (米国メディアの日本特派員から)北米でEVは人気がないのに、これだけの野心的な目標を掲げられる理由は?
A 非常に難しい質問ですね。今EVの話題が注目を浴びていますが、シェアとしては非常に少ないです。北米にしても日本にしても(EVのシェアが)1%に満たない状況の中で、今回の非常にアグレッシブな提案というわけで、ハードルは非常に高いと考えています。まず現段階では、EVを買っていただいているお客さまはイノベーターというかアーリーマジョリティというか、そういう新しいモノに非常に興味のあるお客さまに買っていただいていると理解しています。普及という観点で言うと、その次に来るマジョリティのお客さまがEVを買うかどうか。お客さま視点でいうと利便性で見て、今のガソリン車(の使い勝手を)そのままEVで置き換えるということはまだまだできておりませんし、そういう顧客視点で買っていただけるEVが30年までに供給できるかで、普及するしないがだいぶ変わってくると思っています。
最近でいうとただEVを作ればいいということではなく、やっぱり今のクルマに無い新しい価値、ソフトウェアディファインドカーというような言い方をしていますが、EVというクルマ(ハードウェア)そのものの価値もあるんですが、そこに載っているソフトウェアでさらにそこにクルマとしての価値を増していくということ、それに加えてインフラの整備、ちゅうちょなく充電ができる環境を作っていくこと。
ただ、想像していただくと分かると思うのですが、皆さんが住んでいるマンションに、充電設備がないところがたくさんあると思うのですが、すでに建っているマンションに充電環境が作れるかというと非常に大きな課題があると思います。商品の話だけでなく、充電ステーションをたくさん作るだけでもなく、住環境に充電環境における課題の解決も必要ですし、われわれとしても事業的に電動化によって収益が出る構造にしていかなければならない。
課題がたくさんあると申し上げましたが、まだまだ越えなければいけないし、電動3部品と呼んでいる、モーター、インバーター、バッテリーの性能を上げながら、コストも下げなければいけない。あらゆる課題について、同時に進めていく以外に方法がない。なかなか上手い手法がなくて、それら全部を地道に進めていくことによって、お客さまからも価値があり、われわれも事業が成り立つようなクルマ。これを30年までに成り立たせるためには、もっと手前の段階でそれを達成しなければならないと考えていますので、そういった意味では非常に難易度の高いことに挑戦していくし、その中で機種数をどのくらい出すかというあたりは案としてはたくさんあるのですが、まだ明確に決まったものはございません。非常に流動的な中、30年の目標値に向けてこれから進んでいきたいと。あくまでも目標達成に向けて前向きに取り組んでいくと考えております。
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