内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)
ホンダは新目標を大きく2つに絞った。一つは「ホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」であり、もう一つは「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」。そして何より素晴らしいのは、その年限を2050年と明確に定めたことだ。ホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。
Q 実現の課題は何か?
A 課題はたくさんございます。まず開発でいうと、一番大きいのはバッテリーだと考えています。既存の液体リチウムイオンバッテリーについては、非常に運ぶのが難しいという特性上、地域毎に戦略を変えなければならないので、そのあたりを慎重にやっています。慎重というのは、今のバッテリーは非常に燃えやすい特性があります。クルマのコストの約半分を占めるようなバッテリーが燃えて、品質問題を起こしますと、(巨額のリコール費用が発生する)大きな問題になります。今のバッテリーのコストでいうと一般的にはパック単位で1kWあたり100ドルを切るかどうかが限界線といわれておりまして、ただそれだと今のビジネスを前提とすると、そこまで下がっても収益が上がらないと認識しております。ですからそこにさらに全固体電池のような技術的ブレークスルーがあれば事業性の改善ができるのではないかと。もうひとつ全固体電池は、特性上非常に燃えにくいというのもあります。なので技術的キーはいろいろな意味でバッテリーだと考えています。
しかしそこだけでは事業的に成り立つことは非常に苦しいと考えておりまして、EVは部品点数が減りますので、生産工場のラインをEVに最適化していくことを、どこかのタイミングで考えていくことは検討中です。販売に関してもディーラーベースとなる既存の売り方ではなく、ディーラーを持たずにオンライン販売をする売り方を新興勢力は進めておりますが、それに対してわれわれ既存の自動車メーカーはどう戦っていくのか。
どの領域をとっても「こうすれば上手くいく」という方法がない中で、非常に難易度が高い目標を今日は提案したということです。目標を設定して、あらゆる領域で目標達成に向かって進んでいけば、必ず到達できると私は確信しています。根拠は何かと聞かれると、今ははっきり説明できないということですけれど、目標を明確にしたということが第一歩であるということだとご理解いただきたいと思います。
A 質問が出なかったので勝手に自分でしゃべりますと、なぜ日本だけ20%なのかということですけれど、日本は突出してHVの比率が高いということで、日本の電力事情を考慮すると、30年にCO2を下げるという観点でいうと、コンベンショナルなエンジンからHVに変えていくと相当CO2が減ります。当然EVも出していきますが、日本市場に限りますと、HVの比率を増やすということは現実的な解であると考えております。決して日本市場を下に見ているということではなく、30年までは少なくともその戦略で行った方がCO2が下がると考えております。
関連記事
- バッテリーEV以外の選択肢
バッテリーEV(BEV)やプラグインハイブリッド(PHV)などの「リチャージ系」は、自宅に充電設備がないともの凄く使いにくい。だから内燃機関はしぶとく残るし、ハイブリッド(HV)も然りだ。ただし、カーボンニュートラルにも目を配る必要はある。だから、それらを補う別のエネルギーを開発しようという機運はずっと前から盛り上がっている。 - ガソリン車禁止の真実(ファクト編)
年末の慌ただしい時期に、自動車業界を震撼(しんかん)させたのがこのガソリン車禁止のニュースだった。10月26日の菅義偉首相の所信表明演説と、12月11日の小泉進次郎環境大臣会見が基本になるだろう。カンタンにするために、所信表明演説を超訳する。 - ガソリン車禁止の真実(考察編)
「ファクト編」では、政府発表では、そもそも官邸や省庁は一度も「ガソリン車禁止」とは言っていないことを検証した。公的な発表が何もない。にも関わらず、あたかも30年にガソリン車が禁止になるかのような話が、あれだけ世間を賑わしたのはなぜか? それは経産省と環境省の一部が、意図的な観測気球を飛ばし、不勉強なメディアとEVを崇拝するEVファンが、世界の潮流だなんだと都合の良いように言説を振りまいたからだ。 - ホンダの決算から見る未来
ホンダの決算は、コロナ禍にあって、最終的な営業利益率のダウンが4.2%レベルで抑えられているので、酷いことにはなっていない。ただし、二輪事業の収益を保ちつつ、四輪事業の利益率を二輪並に引き上げていく必要がある。特に、武漢第3工場の稼働など、中国での生産設備の増強は続いており、中国マーケットへの傾倒をどうするかは課題だ。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.