「全員、1回銀行を退職したつもりで」 北國銀行が“DX人材”を集められる理由(2/2 ページ)
石川県に本店を置く地銀の一つ、北國銀行は2020年9月からDX人材の採用に力を入れている。どのように人材を確保しているのか。北國銀行の岩間正樹さん(システム部長)に話を聞いた。
一つには、岩間さんの立ち位置が関係している。岩間さんは、北國銀行にいながら、その子会社であるデジタルバリューの取締役兼テクノロジー部長でもある。同社が誕生する前、東京のベンチャー企業と協働で北國銀行のB2Cインターネットバンキングシステムを開発し、19年9月に「北國クラウドバンキング」をローンチした。
同時に、法人向けインターネットバンキングシステムの開発も視野に入れ、デジタルバリュー設立準備をしていたが、石川県内では協働したベンチャー企業に在籍していたような人材を見つけるのは難しいと判断。人材を見つけ、採用しやすくなるよう東京に子会社の本社を置くことにした。
しかし今度は「どのような人がDX推進を担えるのか、という目利きが難しいことに気付きました」と岩間さんは苦笑する。「ハイクラスのSIerはスキルも知見も持っていますが、クラウドやアジャイル開発の知見が高いとは限りません。できれば、これまでの成功体験に縛られていない人のほうがいい。“今風の知見”がありつつも、若くて頭が柔らかくて、どんどん知見を吸収できる……そんな人材を求めました」
そこで、IT/Webエンジニアに特化した転職サイト「paiza」(パイザ)も活用した。登録者40万人全員が、必ずしも実績のある人ではない。しかし全員に同じスキルチェックを行っており、6段階でレベリングされている。「実績はなくとも、レベルは保証されている」というわけだ。
19年11月にデジタルバリューを設立し、翌年1月に運用を開始。しばらくの間は北國銀行からの出向者、協力会社のエンジニアと開発をしていたが、正社員の募集を始め、9月に1人目を採用。その後、五月雨式に採用が進み、転職サイトだけで13人の人材を確保した。
DX人材の採用はデジタルバリューが行っており、彼らの入社先もデジタルバリューになっている。しかし、開発するシステムは北國銀行のものだ。デジタルバリューという、銀行とは異なる評価軸・報酬制度を有する企業で働くことで、彼らの能力を存分に発揮できるようにしたのだ。
新型コロナウイルスの影響もあり、採用した社員は全員リモートワークで働く。そのため、募集地域は県内だけでなく日本全国に及ぶ。「東京に本社があること、また転職サイトを利用したことで、DXの素養のある人材をうまく採用できている」という。
北國銀行は、子会社でDX人材を採用するだけでなく、本社の社員が「アジャイル」思考を身に着けられるように研修を行っている。勉強会や著名人を招いたセミナーなど「手を変え品を変え」(岩間さん)、アジャイルの考え方を刷り込んでいるという。
「新入社員に対しても『今後はアジャイルな働き方が必須になる』と刷り込んでいます」と岩間さん。「座学だけでなく、アジャイルの必要性を理解してもらうロールプレイングも体験してもらっています」
また、デジタルバリューで採用した社員は、業務上必要なソフトウェアや書籍であれば、ほぼ100%を経費で購入できるようにしている。「自ら学んでくれる人たちへの投資だと考えています」と岩間さん。「出し惜しみすることで、モチベーションやパフォーマンスが下がることを考えれば、費用対効果は高いでしょう」と力説する。
一見すると、デジタルとは関係ないようにも思える、人や組織の変革を進める北國銀行。岩間さんは「今後も、古い銀行という枠を突き破り、次世代版地域統合会社を目指して、DX推進を担う人材の採用と教育を続け、地域全体を活性化させたいです」と意気込んでいる。
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