インフレと金利と株式市場:KAMIYAMA Reports(2/3 ページ)
製造業の急回復で銅などのコモディティ価格が上昇し始め、米国経済が正常化すれば労働力不足となり、インフレが起こりやすくなるのでは、といったことが心配されている。しかし、これらは株価下落をもたらすとは思えない。“経済回復・正常化”→モノの価格・賃金の上昇→インフレ懸念・金利上昇→“経済悪化・株価下落”という因果は、経済回復・正常化→経済悪化・株価下落であり、矛盾しているからだ。
FRBの金融政策が株式市場に悪影響を与える可能性は低い
FRB(米連邦準備理事会)がテーパリング(量的緩和の縮小)を開始し、政策金利の上昇が懸念されれば、株価に悪影響を与える、といった声も耳にするが、FRBが金融政策を間違える可能性は低いとみている。ただし、コロナ禍の緊急事態からの脱却は早晩スタートするので、そのことと2%のインフレ率を目指す政策を混同しないように気を付けたい。
コロナ禍での緊急事態対応については、FRBがCPや社債などに大規模介入し、銀行などの負担を減らして金融システムを守ろうとするものであったので、今後ワクチン接種の進展で経済が正常化すれば、それに沿って年内にもクレジット市場への介入を中心にテーパリングを開始する可能性がある。しかし、これは金融システムの正常化が目的であり、インフレだから金融引き締めに転換するのではない。
FRBの政策変化を考えるための参考指標として、雇用とインフレ期待がある。雇用については、製造業の雇用回復は早かったものの、コロナ禍での自粛等で傷んだ旅行や外食、空運などサービス業の回復はまだ始まったばかりだ。失業手当の上乗せで仕事を探す側の出足が遅いとされているものの、FRBから見ると、いまだコロナ・ショックからの回復は道半ばである。
もう一つは、インフレ期待である。市場規模が相対的に小さい物価連動国債市場の情報(ブレークイーブンインフレ率)などではなく、米国債利回りが長期のインフレ期待を反映するとみているが、FRBによる量的緩和の影響でインフレ期待は読みにくい。また、消費者信頼感指数なども予測力は低い。
しかしながら、現時点でインフレ期待の上昇は非常に限定的とみている。短期的には、コロナ禍で低下した物価の上昇、いわゆるヘッドラインでインフレ率が上昇するが、実態としては低下した物価が元に戻るだけである。FRBのパウエル議長も “一時的な物価上昇で緩和姿勢を変えることはない”と、しばしば市場に伝えている。
今後FRBは、2%のインフレ目標に向けて、インフレ率が安定して2%になるまではテーパリングも金利引き上げも簡単にはスタートさせないだろう。インフレ率が安定して2%になるとは、経済が正常化することであるから、インフレ期待の上昇による金利上昇は「良い金利上昇」となり、株価上昇と両立する可能性が高く、FRBが雇用回復を待たずに金融引き締めに転じるとは考えにくい。その後も、FRBが経済正常化を景気過熱と勘違いするとは予想していない。
関連記事
- シリコン・サイクルはスーパー・サイクルに入った!?
シリコン・サイクルとは、シリコンの販売額がサイクルとなって上下動している様を表す言葉だ。2017年ごろから半導体の売り上げが勢い良く伸びた時、シリコン・サイクルは過熱しているのか、本当に「スーパー・サイクル」に入るのか、などと議論されていた。この時、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)に関わる分野の成長が続いていたので、「スーパー・サイクル化」すると考えられていた。 - 回復続く経済における3つのリスク 財政、ワクチン、貯蓄率
コロナ禍を乗り切ったかに見える経済にはどんなリスクがあるのか。日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト神山直樹氏は、財政、ワクチン、貯蓄率について、3つのリスクがあると言う。 - “株価と経済の乖離”は時代遅れ? コロナ以前まで回復してきている経済
2万8000円を超え連日バブル後最高値を更新する日経平均、過去最高値を更新し続ける米NYダウ平均株価など、株高が続いている。これに対して、「経済と乖離(かいり)した株高」と呼ぶ人もいるが、果たしてどうか。 - 株価が待つ景気回復
足元、コロナ・ショックの混乱期(2020年3月から6月)に世界のエコノミストが想定した経済回復シナリオに沿って、米国の経済回復は順調に進んでいるといえる。米国を含む主要国で新型コロナウイルスの感染者が再度増加しているにもかかわらず、当初の医療崩壊懸念を含む混乱はおおむね避けられ、注目は経済回復の進度に向かっている。 - コロナ・ショック後の回復が遅れるJ-REIT市場
行動制限やロックダウンなどの影響で、世界的に株式やREITの価格が急落した後、J-REIT市場は株式市場に比べて回復が遅れている。現時点で、REITは割安と考えている。足元、底打ち感が出てきたとはいえ、今後の経済正常化を十分に織り込んだ水準には回復していない。
© Nikko Asset Management Co., Ltd.