コロナ禍で飲食業界は「格差社会」に? スシロー・コロワイド・鳥貴族に学ぶ、生き延びるカギ:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
コロナ禍に大きく影響を受けた2020年度に関する飲食業界の決算が出そろった。影響の大きかった/小さかった業態、そしてその業態の中でもうまく適応できた企業とできなかった企業とで「格差社会」となるなか、生き残りのカギはどこにあるのか。有名企業の戦略から解説する。
居酒屋企業の鳥貴族は、チキンバーガー専門店「TORIKI BURGER」を始めることを発表し、8月にオープンを予定しているという。これは、焼き鳥居酒屋の運営で培った鶏肉の購買力を生かして、昼の業態に分散投資を行い、「居酒屋一本足打法」のリスク分散を図る、という分かりやすい発想だ。チキンバーガー業態は独立した店舗網となるようだが、成功した場合は必ずや、居酒屋既存店の昼間時間帯の活性化に使われるはずだ。営業時間帯の弾力化、かつ、テークアウト対応可能なチキンバーガーが成功するならば、かなりのリスク分散効果があるだろう。
こうして見てくると、コロナ禍、ひいては環境変化に対する教訓は、「多様化によるリスク分散に尽きる」ということなのであろう。コロナ禍における「勝ち組外食」のスシローは、現在郊外型立地が中心ではあるが、都心部に大型店出店を進めている。これは立地面の多様性を強化するものといえ、あらためてスシローの機を見るに敏な経営には舌を巻いてしまう。
コロナ禍はワクチンが普及すれば必ず収束し、現今のようなコロナ対応は無用のものとなるだろう。ただ、今後も想定しえない環境変化や災厄がやってきてわれわれを脅かすことは間違いない。そして、それを前もって予測することは不可能だ。できることといえば、ビジネスモデルに多様性を持たせること、これしかないのであろう。このことを目の当たりにした外食産業は、アフターコロナにおいて異業態、異業種への進出、そしてM&Aが増えるかもしれない。
おまけ:なぜ、ダイヤモンドダイニングはコロナ禍で苦戦したか
と、ここまで書いて締めようと思ったが、「多様性」という概念は一筋縄ではいかない、と感じた事例があるので最後に紹介しておきたい。
ディナーレストランのマルチ業態展開で業界では有名なダイヤモンドダイニングという外食チェーンがある。「100業態100店舗」という店舗網を創り出し、はやり廃りの激しい業界で、業態分散によるリスク分散を実行しつつ成長してきたことで知られている。
ところが、この業態多様性はコロナ禍では通用せず、大幅減収、大幅赤字で、一気に債務超過にまで追い込まれた。店舗の陳腐化リスクを分散することに成功したこのビジネスモデルも、ディナーが中心で、テークアウトへのシフトも困難、さらには大都市ビルインという点で、コロナ禍という観点から見ると「同一業態」でしかなかったようだ。
「多様性」というのは容易だが、何をもって多様なのかということは、簡単な話ではなさそうだ。少なくともコロナ禍の教訓は、営業時間帯、容積拡張可能性(席数+テークアウト+宅配)、店舗立地という各要素において設定の異なる業態を持っておくことが多様性だったようだ。ただ、次に来る災厄に通用するかどうかは誰にも分からない、のである……。
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