リストラしたい会社と、しがみつきたい社員 双方を苦しめる「成功体験」の正体:パナソニック報道で話題(5/5 ページ)
パナソニックの“リストラ”報道が話題となっている。人員削減したい企業、そして会社に残りたい社員。双方はそれぞれ成功体験を抱えていると筆者は指摘し、その成功体験を捨てない限り、不幸な人員削減が続くと解説する。
会社と社員の目線を整理してみると……
人員削減策が奏功した時代に描かれていた未来像と、現在から見た未来像は同じではありません。人口が増え続けていた時代とは異なり、現在は減少期に入っています。コロナ禍によって見えづらくなっているものの、未来に向けて恒常的な人手不足に陥る可能性があります。未来像を描く上では決して無視できない条件の一つです。一方で平均寿命は延び続けており、長期的な人生設計が必要にもなっています。
これまでとは異なる未来が待ち受けている状況の中で、会社側も社員側も、過去の成功体験を踏襲することが最善策なのかどうか検証し直す必要があるはずです。
「人員削減策を実施する『会社側』の目線」と「人員削減対象となっても会社に残留する『社員側』の目線」それぞれについて、これからの未来像を踏まえた懸念点を3つの側面に倣って整理したのが以下の図です。
このように、会社側も社員側も、過去の成功体験に固持していては不幸な結末となる可能性があるのです。時代は変化し続けています。副業が促進されるようになり、人材が有するスキルは一社で独占する時代からシェアする時代へと移り変わりつつあります。一方、平均寿命は延び、収入獲得や生きがいを得る手段として、仕事に携わる時間は人生の中でさらに長くなる可能性があります。
私たちを取り巻く環境が前へ進んだとしても、過去の成功体験が通用するケースはあるのかもしれません。しかし、今後は通用しないケースが増えていくことになるのではないでしょうか。会社も社員もそれぞれの最適解を見つけるために未来像を描き直し、成功体験を刷新しなければならない時期に来ているように思います。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
関連記事
- 退職金4000万円上乗せ! パナの「50代狙い撃ちリストラ」は“正解”なのか
パナソニックが「50代社員」を対象に、大規模なリストラに踏み切る――。ダイヤモンド編集部が同社の内部資料を入手して報じたわけだが、“働かないおじさん”をターゲットにしたことは吉と出るのだろうか。長い目で見ると……。 - 愛知県知事リコール署名の不正はなぜ防げなかったのか? 受託者側から見る、問題の病巣
問題となっている愛知県知事リコール。不正の責任は受託者側にもあると筆者は指摘する。 - にわかに進む「週休3日制」議論が空虚な“改革ごっこ”に陥りそうだと思うワケ
「週休3日制」の議論が進んでいるが、筆者はスローガン先行の現状に警鐘を鳴らす。真の改革を伴わない“改革ごっこ”に要注意。 - 「表現の自由」を企業がどこまで守るか 8chan、愛知芸術祭に見るリスクと責任
愛知県・国際芸術祭の展示中止問題で「表現の自由」を巡る議論が盛り上がっている。米国でもネット掲示板「8chan」が一時停止に追い込まれた。企業の事業や自治体のイベントにも、表現の自由を巡るリスクが隠れている。どのように扱うべきだろうか。 - “署名偽造”バイトの求人を掲載か スキマバイトアプリ「タイミー」運営会社が声明を発表
愛知県知事のリコール運動で集められた署名の中に、偽造が疑われるものがあったと報道されている。また、スキマバイトアプリ「タイミー」に、署名を偽造するバイトの求人が掲載されていたとの指摘がある。運営会社がこうした報道や指摘を受けて声明を発表した。 - 組織を悩ます「不祥事」と「社員の処分」 それでも“もみ消す”企業が多いワケ
厚労省職員の飲み会問題が波紋を呼んでいる。郵便局でも、内部通報した職員に対する対応が問題となっているなど、企業の不祥事はなかなか絶えない。なぜ、真正面から向かい合わず、“もみ消す”方向の企業が多いのか。 - 21卒が定年退職するころ、労働市場はどうなる? データから考える、「定年」の在り方
コロナ禍のさなか、就職活動をした2021年卒の学生たちが新入社員として働き始める。彼らが定年を迎えるころ、労働市場はどうなっているのだろうか。そのころ、定年という概念はどうなっているのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.