これからのリスクを考える:KAMIYAMA Report(3/3 ページ)
最初に、「テーパリング(tapering)」の意味がしばしば誤解されているので明確にする。テーパリングとは、「先細り」を意味するtaperから派生した言葉であり、量的緩和そのものが終わるのではなく、スピードダウンすることだ。
短期的に株式市場は横ばいか:利益成長が株価上昇をもたらそう
テーパリングと企業増税に関するリスクは、いずれも「メイン・シナリオ」ではない。FRBが必要以上にテーパリングや利上げを急ぐ理由はないし、そうなる状況(例えば小さなバブル(フロス)への過剰な対応)になるとも考えにくい。そもそも政策の失敗を予想すること自体「メイン・シナリオ」ではない。
ただし、市場が思っているようにはFRBが動かず、3〜6ヵ月程度の間はFRBと市場との間で認識のズレがある状態が続くと想定される。例えば、FRBがインフレが近づいていないと判断しても、市場がインフレを懸念して長期債を売却し、市場金利が上昇することがある。しかし、実際にインフレがFRBの想定した程度に緩やかに進むのであれば、市場は早晩それに気づいて債券を買いなおす——。このようなことが繰り返され、今後も市場の上下動が続くだろう。
長期投資家からみれば、市場心理の揺れを投資行動につなげる必要はない。ただ、市場心理やFRBの発言などにその都度反応するヘッジファンドなどは、売買を繰り返すかもしれない。
今年4〜5月の資本市場は、株式・金利・債券いずれも狭いレンジの中での取引となったが、インフレや金利上昇への懸念と、ワクチン接種が進み経済正常化の進展期待が高まったこととの綱引きになっているようにみえる。そもそも、企業の売り上げがインフレや金利上昇をカバーするほどに増えるならば、懸念する必要はない。財政政策で人々に配分されたお金がまだ滞留しているので、今後も企業の売上回復が続くとみられる。つまり、金利上昇やインフレへの懸念は、企業収益の回復と成長で払しょくされると考えられる。
現時点までの平均的な企業業績は、コロナ・ショック前の水準まで回復している。巣ごもり需要でショック前より利益が伸びた企業もあれば、ホテル・旅行や空運など回復が不十分なセクターもある。だが、大規模な財政政策と貯蓄取り崩しの少なさをみる限り、ワクチン接種が進み経済活動が正常化すれば、幅広いセクターにおいて、単なる回復ではない利益成長になるとみる。今後、インフレや金利よりも、企業収益が十分期待に沿う程度に成長するかに注目したい。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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