コロナ後のインフレを考える:KAMIYAMA Reports(1/2 ページ)
エジンバラやロンドン拠点の株式・債券のファンドマネジャーから、これから5年程度の中長期で投資環境を考えるときには「世界的なインフレの可能性」を想定した方が良い、という話題が出された。後になって振り返ってみると転換点になっているかもしれない、ということだ。
「デフレではない」とはいえ、デフレ的環境から脱却したと自信を持てない日本に住んでいると、コロナ後の世界を考えるときにインフレになりそうだとは言いにくい。
しかし、日興アセットマネジメントの6月のグローバル投資委員会(GIC)では、エジンバラやロンドン拠点の株式・債券のファンドマネジャーから、これから5年程度の中長期で投資環境を考えるときには「世界的なインフレの可能性」を想定した方が良い、という話題が出された。現時点でインフレの兆しが経済指標に表れているわけではないが、後になって振り返ってみると転換点になっているかもしれない、ということだ。
いくつかの理由が議論された。まず、(1)各国中央銀行がインフレに導くために量的緩和を行っており、FRB(米連邦準備制度理事会)などではコロナ対応でその額が一気に増えた、(2)危機対応とはいえ世界主要国が大規模な財政出動を行っている、(3)ひとたび経済活動の正常化が進めば、人々の期待が変わる可能性がある、(4)逆に新型コロナウイルスの感染第2波によってサプライチェーンが打撃を受けた場合、物不足となりインフレを招く、との見方も出ていた。
緩やかに金利が上昇する可能性
日本では「非伝統的」金融緩和が行われてきたが、ひどいデフレから脱却したものの、デフレマインドがなくなったとは考えにくい。財政出動も緊急事態のセーフティネットであって「出しすぎ」ともいえない。しかし、人々の期待の変化には注目できる。
まず、世界中で政府への依存心が強まっている。70年代のオイルショック前後に急激なインフレになった原因のひとつが、選挙で選ばれる議員や大統領などの“予算のばらまき”であるとの見方が広がったことで、80年代以降、景気対策は中央銀行による金融政策で行うことになった。結果、インフレとの戦いに勝利し、人々のインフレ期待は大幅に低下、長期金利も、実質成長率の低下以上にインフレ期待が低下したため、大きく下がってきた。
コロナ・ショックのように金融政策の効果が期待できない(一定期間経済活動ができないので刺激の意味もない)状況が起きたことで、景気対策としての財政政策への期待が高まらざるを得なくなっている。
その一方で、米国では野党・民主党の大統領候補であったサンダース氏が善戦したことでも分かるように、社会保障強化のニーズもも高まっている。格差拡大と固定化を感じる若者が増え、どうせ成功者になれないのであれば、所得税の増税とともに健康保険や社会保障を十分安心できるものにして欲しい、という考えが強まっている。これも政府依存を強め得る。
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