コロナ後の世界 緊急事態から格差縮小へ:KAMIYAMA Reports(1/2 ページ)
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わる。財政政策を担当する政府と、金融政策を担当する中央銀行の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。また、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。
財政政策に注目:緊急事態から格差縮小へ
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わるとみている。米国など主要国がインフレと戦っていた1980年代以降、選挙で選ばれる議員や大統領などは、財政政策でインフレを刺激することを避けるようになり、インフレと戦うFRB(米連邦準備制度理事会)など中央銀行の役割が重要となっている。財政政策は、必要経費的な支出を除き、抑えられていた。なお、日本が東日本大震災後に災害対策と復興対策を同時に打ち出したことは、例外といえる。
所得保障など緊急事態対策が一段落する「コロナ後」でも、日本を始め主要国で財政政策が重視され続けるとみている。例えば、生産の国内回帰支援、格差拡大・固定解消に対応する社会福祉の充実、病院施設や健康保険制度の充実支援、再分配(税制)の見直し(高所得層や企業への増税、社会保障費などの負担増)が考えられる。
米国では、大統領選を通じて、若い世代が民主党のサンダース候補(すでに大統領選候補を辞退)の社会保障充実を支持した。米国に限らず先進国では、自由や夢よりも、固定化する格差社会への不満が、政策選択に影響を与えそうだ。
また、世界的にデフレ懸念が続き、低金利下で金融政策が設備投資行動に影響しづらくなっている。そのため、景気浮揚のためには、金融政策と財政政策を一体化せざるを得なくなる。これがコロナ・ショック対応で明確になってきた。
中央銀行の意思決定は政府から独立しているのだが、景気対策としての財政政策が、中央銀行の紙幣発行で実質的にファイナンスされる傾向は強まろう。一方、金融システムの維持・強靭化を目的に、中央銀行はクレジット市場に介入するようになってきた。リーマン・ショック後に導入されたマクロ・プルーデンス(金融システムの安定を確保し、経済悪化の中でも需要を維持させる)は、コロナ・ショックで中央銀行のクレジット市場への介入を促進させたとみる。
さらに、国(ここでは、財政政策を担当する政府+金融政策を担当する中央銀行)の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。
権力への依存とは、人々が政府に介入を要求することだ。恣意的な「再分配」は長期的に経済を強くできないし、効果的な投資プロジェクトは先進国にあまり多くない。それでも、過去から蓄積された格差拡大と固定の感覚や、コロナ・ショックでの金利政策の行き詰まりなどが、人々の心にこれまでと違う世界をもたらすとみている。
結果として、民間企業が積極的に融資を受け、リスクをとって事業を起こすよりも、政府にクレジットを肩代わりしてもらおうとする可能性がある。そうなれば、国の借金が増加し、高リスクプロジェクトの国家主導化が進むことになる。政策が重要になるほど国の間違うリスクが増大し、例えば生産拠点の国内回帰による非効率も許容され、民間企業は現状維持を望み、低債務・低リスクだが高税率が課される。
このような財政膨張とクラウディング・アウトによる低成長のリスクを避けるためには、国が所得を正しく分配し、消費を刺激し、財・サービスの市場機能を利用する必要がある。そうすれば民間企業は、活力を取り戻し、既存事業を改善させ、さらに市場に良い商品を提供して成長しようとするだろう。企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)について投資家との対話を活かすなどして、蓄積された資金を有効活用し、格差是正などの社会的ニーズに対応した、労働効率改善や健康増進等のサービスを提供する機会などを探してほしい。
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