コロナ後の世界 緊急事態から格差縮小へ:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わる。財政政策を担当する政府と、金融政策を担当する中央銀行の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。また、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。
「非接触」と「ヘルスケア」の台頭か
「コロナ後」の経済では、インターネット関連などのテクノロジー、特に「非接触」に注目する。典型的なのが、通信回線を利用したウェブ会議への支援などだ。バーチャルな接触ニーズは、テレワーク(会議だけではなく)や巣篭もり消費の支援(オンライン・ショッピング)だけではない。例えば、中国などで進むe-education(ネット環境を利用した遠隔教育・塾)ビジネスや、遠隔医療支援などが注目される。
一方、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。人々はコロナ後の心理的影響で、しばらくは管理社会を容認する可能性がある。プライバシー保護と自由な行動よりも、安全優先で人々の行動詳細を国などが監視することをある程度容認することになり、FacebookやLINEなどの持つ“力”を人々は利用することになる。そして、社会の持続性のために、プラットフォーマーは電力や水道のような社会インフラと認識されるだろう。
これは関連業種の当面の成長を支えることになるが、長期的にはデータ保護の徹底などで国の監視を受ける(業法などができる)こともありえよう。この場合は、コスト増と成長の限界に行き当たる恐れが強まる。
非接触には、これまで日本やドイツで重要な産業として育ってきた、生産工程のロボット化も含まれる。自動運転による輸送等サービス業の労働効率改善なども、未来の姿として描くことができる。これらは、働き方改革やESG経営の促進にも関連する。
リスクが高いプロジェクトに、政府が支出することも増えるだろう。例えば災害対策(レジリエンス)、生産拠点の国内回帰に向けた土地購入等の投資負担などが考えられる。ただし、建設業や製造業が必ずしも利益率を高められるとは言えず、有効需要が増えるということも考えにくいが、日本企業にとって少ない追加コストで生産拠点の立地を変更できるという効果は見込める。
もうひとつ、ヘルスケアにも注目する。これまでバイオテックや新薬開発(がん先端治療などを含む)が成長分野として注目されてきたが、今後は世界的に社会保障や医療負担への政府支出が増加するだろう。技術力のあるバイオテックはこれまで同様に期待ができるし、個別企業の新型コロナ・ウイルスのワクチン、治療薬、検査薬などへの投資も興味深い。
しかし、ここで注目したいのは、米国など先進国の医療制度の充実傾向、健康保険の対象薬品などへの支出増大だ。民間企業の低リスク選択の時代にディフェンシブなヘルスケア業種の相対的な魅力が高まるだろう。
緩やかなインフレと金利上昇に期待
今後、5〜10年の視野で、インフレ的な世界が来る可能性がある。財政出動によるパンデミック対応のための総需要の押し上げは、その後の景気対策への財政政策依存を促すと見ている。インフレ期待が低く低金利が続く中で、金利を引き下げても投資への刺激効果は限られる。これは、石油ショック前の経済を想起させる。
インフレ期待のためには、事業者のアニマル・スピリッツ(野心)が必要だが、米国などは経済正常化で資金の取り合いが予想される。政府はインフレで実質的な負債削減を期待できる。「混乱なきインフレ回帰」、つまり緩やかなインフレになることを期待している。
先進国株価は、正常化を確認しつつ、緩やかな回復が続くとみている。資本効率の低下による労働生産性の上昇を待つ中で、政府の主導する改革に依存し、政治が間違うリスクは残るだろう。中でも新興国では、資金不足が続き、低成長国へ転落する国もあるかもしれない。そのため、新興国投資では国家政策の見極めが重要となる。正しい金融システムを作れるか、財産権を確立できるか、信用が確立するかなどを、プロの目で注目していきたい。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
KAMIYAMA View チーフ・ストラテジスト神山直樹が語るマーケットと投資
関連記事
- コロナ対策で世界の財政は崩壊しない
政府財政の悪化がどのくらい許されるのか、という問いに、明確な答えは見当たらない。しかし、インフレあるいは期待インフレ率の上昇により、人々の期待もそれに追随する傾向にある。アフター・コロナの時代は、財政政策が重要となり、5〜10年の単位で見れば、再び金利上昇トレンドに転ずる可能性がある。 - コロナ・ショックからの回復を支える財政拡大
過去最大級の経済対策を決定した日本では、今後感染拡大防止が奏功した段階で、地域活性化などのアイデアの具体化を含む追加対策が打ち出されることになるだろう。米国では、追加の経済対策が議論され始め、欧州でもEUがルールを一時緩和し、機動的な財政政策が打てるようになった。 - コロナ・ショックでトレンドは終わったのか
新型コロナウイルスの世界的な拡大を受けて、これまで重視してきた「リーマン・ショックからの米国の雇用回復→賃金上昇→消費拡大→貿易拡大が世界に波及」という大きなトレンドは、いったん止まるが、終わるということではない。 - 株価の下値めどとシナリオ 米国の8週間程度の活動自粛を織り込む金融市場
仮に、5月10日ごろまで事実上の外出禁止を含む自粛ムードが続いた後、全米でウイルス収束の兆しが見え、2020年7−9月期に主要都市で経済活動が正常化に向かうのであれば、現在の日米株価指数の水準は、今後8週間は中止または延期のシナリオと整合的だと考える。 - コロナ・ショックとリーマン・ショックの違い
バブル崩壊とウイルス感染では景気回復が違うはずだ。株価の下げのめどと今後のシナリオを語ることは不可能への挑戦だが、現時点で市場で想定されている2四半期程度の消費低迷とその後の正常化を前提とすると、3月23日時点の日・米・欧の株価指数はおおむね悪材料を織り込んでいるとみられ、さらなる下げが長く続くとは考えにくい。
© Nikko Asset Management Co., Ltd.