東芝、「調査報告書」騒動の本質は? 事件から学ぶ2つの教訓:歴史的な企業統治スキャンダルか(3/4 ページ)
東芝の調査報告書が注目されている。筆者は企業統治における「歴史的スキャンダル」になる可能性があると指摘する。事件から何を学べるのか。
東芝レポートのなにが衝撃的だったのか?
留意したいのは、安全保障に関する規制を政治的理由で使うと非難されるのは、何も日本政府に限ったことではない点だ。例えば、米国政府機関である対米外国投資委員会(CFIUS)も、世界から同じ批判を受けている。最近の事例では、トランプ政権がTikTokの親会社に対し、CFIUSの権限を発動して米国のコア事業を米国企業に売却するよう迫った。当時の米政府を動かしているのは本当に安全保障上の理由だけなのか、疑わしいとの報道がされた。
では、東芝レポートのなにが衝撃的だったのか? それは、上場企業が政府と連携して、株主民主主義の機能に不公正な圧力を加えたと指摘したことだ。
本来、経営側には経営判断において大きな裁量が許される。ビジネスの現場にはあらゆる情報が集まり、経営側はそれらを基に日々難しい判断を下す必要がある。後日振り返ったとき、「あの時のあの判断は間違っていた」「賢明ではなかった」などと株主らに糾弾されてはやっていられない。そこで、株主らは、株主総会で経営を委任した取締役たちの判断を尊重しましょう、という原則がある。
ただし、その裏返しには、取締役を選任する総会手続きだけは、自己保身へのインセンティブが働く経営側の裁量の及ばない「聖域」でなければならないという考えがある。例えば、米国では、株主による取締役会過半数メンバーの選任行為を経営側が封じ込めるという目的が認められた場合、たとえ合法的な手続きを踏まえたとしても経営側はそのような行為をしてはいけない、と判示した「Blasius事件」がある。
株主民主主義を制度として大切にしているのは、日本も同様だ。どんな有名企業の株式でも、1単元をネット証券で買ってしまえば、正当な理由をもって請求することで、個人名や住所を含む株主名簿を見せてもらえるし、コピーもとれる。もっと持分比率を上げれば、総会での株主提案も可能で、これも筆頭株主や大株主になることが要件ではない。
そこまでして法律が守る株主民主主義の機能を、上場企業の経営陣が政府と連携して妨げた点、及びその連携の密度が異常であった点をもって、東芝大株主の3Dインベストメント・パートナーズなどは「過去10年間の世界中のあらゆる大企業の中で最も衝撃的かつ顕著なコーポレート・ガバナンス(企業統治)・スキャンダル」と評しているのである。
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