東芝だけじゃない! プロ経営者の功と罪 車谷、ゴーン、原田泳幸に見る、“失政”の本質:東芝、日産、マック、ベネッセ(1/4 ページ)
渦中の東芝だけでなく、日産や日本マクドナルドなど、「プロ経営者」に振り回された日本企業は多い。なぜ、プロ経営者の失政は生まれるのか。
この春大きな話題を呼んだ経済界の出来事に、東芝を巡る一騒動があります。1月に念願の東証一部復帰を果たした矢先、同社に対して海外投資ファンドであるCVCキャピタル・パートナーズ(以下CVC)から、上場廃止を前提とした買収提案があったというものです。
日経新聞がスクープした段階で、「何だこの話は!」と違和感アリアリだったわけですが、程なく車谷暢昭社長(当時)が辞任会見に同席しない「実質解任」といえる事態に至り、社長自らの保身が起こした“自作自演”であったことが確実になりました。しかしこの件が東芝に残したダメージは大きく、外部から招聘(しょうへい)された「プロ経営者」のミッションという観点から大いに考えさせられる一件でもありました。
車谷氏は旧三井銀行出身で、三井住友銀行発足に奔走したエリートバンカーです。合併後は副頭取に就任するも頭取レースに敗れ、自らグループを離れます。その移籍先のポジションが、今般東芝に提案を持ちかけたCVCの日本法人会長職だったのです。すなわち、東芝への提案は車谷氏の古巣からの提案というわけで、いやが上にも氏が仕掛けた奇策に違いないということになってしまい、結局自ら墓穴を掘る形になったわけなのです。
車谷氏はなぜ古巣のCVCを動かしてまで無謀な提案をさせたのかといえば、それは車谷氏とアクティビスト(物言う株主)たちとの対立回避に他なりません。2017年の巨額損失の処理の際に6000億円の増資を引き受けて株主になったアクティビストたちが望むのは、あくまで株価上昇によるキャピタルゲインです。
車谷氏は社長として、事業売却、大規模リストラの断行などを指導することで実質無借金経営を実現。20年3月期には営業利益で前期の約4倍となる1305億円を計上し、21年1月に、念願であった3年半ぶりの東証一部復帰を果たしているのです。しかし、株価は一連の不祥事発覚前の水準に比べ1000円以上低い状況に甘んじ、アクティビストたちは不満を募らせます。20年の株主総会では、大幅増益の決算後にもかかわらず、車谷氏再任に対する株主の賛成票は信任ギリギリの57%にとどまるという事態を招いているのです。
アクティビストが不満とする、株価が上がらない最大の理由は、車谷氏指導の下では実現可能な成長戦略が見えてこない、ということに尽きるでしょう。それは当たり前といえば当たり前のことではあります。
関連記事
- なぜ? トラブル続出のみずほ 「ワンみずほ」どころじゃない三竦みの権力構造
同じメガバンクの三菱UFJや三井住友と比較すると、トラブルの絶えないみずほ。筆者はその背景を、リーダーシップのなさだと指摘する。元をたどれば、合併時の権力争いに理由がありそうだ。 - 新日本プロレスのプロ経営者・メイ社長が「リストラせずにV字回復できた理由」――必要なのはコストカットよりも“人材とブランドの育成”
過去最高の売り上げを更新している新日本プロレス。率いるのはプロ経営者のハロルド・ジョージ・メイ社長だ。経営悪化に苦しむ企業をV字回復させてきたメイ社長には、多くのプロ経営者、特に外国人経営者との大きな違いがある。それは社員をリストラすることなく、V字回復を実現してきたことだ。後編では、メイ社長にリストラしない経営と、日本企業の課題と可能性について聞いた。 - ナイキやディズニーを経てギター最大手のCEOへ プロ経営者が見た音楽市場の“特異性”
ギター大手フェンダーCEOのアンディ・ムーニー氏は、ナイキのCMO、ディズニーコンシューマープロダクツやクイックシルバーで社長、会長を務めた経歴を持ち、ギターコレクターでもあり、バンドマンでもある。フェンダーにとどまらず、エレキギターを中心とした楽器、音楽市場の分析や業界のこれからについて伺った。 - いずれはNTTが買収も? 楽天・郵政タッグに透けて見える、「楽天モバイル」の“賞味期限切れ”感
楽天と日本郵政が資本提携も、提携による具体的なメリットが見えづらく、実質的には窮地の楽天モバイルに対する国からの資本注入ではないかと筆者は指摘する。当初は業界の閉塞的な状況を打破することを期待され、鳴り物入りだった楽天モバイルは、今後どうなってしまうのか。 - みずほFG「週休4日制」でサラリーマンに強いられる真の変化とは
みずほFGが週休3・4日制導入を決定。多様な働き方ができる反面、基本給低下も。ビジネスパーソンはどんな変化を強いられるのか。 - 半沢直樹を笑えない? 現実に起こり得る、メガバンク「倍返し」危機とは
7年ぶり放映でも好調の「半沢直樹」。「倍返し」に決めぜりふに銀行の横暴を描く姿が人気だが、どうもフィクションだけの話では済まない可能性が出てきた。現実のメガバンクに迫りくる「倍返し」危機とは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.