九州新幹線西九州ルート、並行在来線問題の解決と「幅広い協議」の行方:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
佐賀県は、九州新幹線西九州ルートに関して開催された国土交通省鉄道局との「幅広い協議」で「フル規格にするなら3ルートを検討してほしい」と意見。その後、与党新幹線プロジェクトでの西九州ルートの検討委員会の報告、JR九州のコメントからは、フル規格の着工が予測されるが、現状、肝心の「建設の合意」ができていない。
ところが、フリーゲージトレインを開発してみると、高速走行時の負担が大きく、部品交換等の整備コストが大きい。軸重(車輪にかかる重さ)が大きく、最高速度もフル規格より遅い。JR西日本からも「山陽新幹線直通はできない」と拒否され、フル規格のメリットのひとつ「新大阪まで直通」は不可能となった。開発費も膨大で、これ以上カネと時間をかけても、新幹線の必要条件、最高時速260キロメートルを達する目途が立たない。そこで国はフリーゲージトレインの開発を断念した。
しかし、すでに武雄温泉〜長崎間はフル規格で建設していた。ならば、全区間フル規格で建設しよう、という機運が高まった。さて、経緯を見ておわかりだろう。ここに佐賀県の同意がない。佐賀県にしてみれば「何で未完成のフリーゲージトレインをアテにしてスーパー特急区間をフル規格で作っちゃったんだ」である。
佐賀県の同意がないまま、フル規格新幹線建設費の見積もりが出され、佐賀県の負担金が算出され、並行在来線分離が前提となった。勝手に外堀を埋められて「これでいいよね、フル規格にしなさい」である。佐賀県は上品だから私が代わりにいうけれど、これは「フル規格の押し売り」である。
「そもそも佐賀県の同意がない」という重要な事実をすっ飛ばして、「佐賀県は建設費を負担したくない」とか「在来線でも十分だからフル規格はいらないんだ」と解釈された。だから政府プロジェクトチームは「負担金を下げてフル規格を受け入れてもらおう」「並行在来線問題を解決しよう」「佐賀県にもフル規格の利点があると説明しなければ」とばかり話し合っている。つまり押し売りの打ち合わせだ。
話のスジとしては「佐賀県にしっかりプレゼンした上で、佐賀県が主体的にフル規格を選択する」としなくてはいけない。負担金や並行在来線の話の前に、だ。
この流れに対して、佐賀県は一貫してフル規格拒否の姿勢を貫いてきた。筆者もフル規格にしてほしいけれども、佐賀県の姿勢は正しいと思う。なぜならこれは、大げさにいえば、整備新幹線の問題だけではなく「地方自治体と政府」の問題だからだ。地方自治体の合意なしに国の政策をゴリ押しして良いのか。沖縄の米軍基地移転問題にも通じるレベルだ。そこに政府側は気付いていないかもしれないが。
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