商圏内で敵なし!? 「スマホでケンタッキーフライドチキンを検索」に隠された戦略:飲食店を科学する(4/4 ページ)
ケンタッキーフライドチキンが絶好調。看板商品のブラッシュアップや、マーケティングが成功した。一方、著者は「スマホでKFCを検索」にある戦略が隠されていると指摘する。
KFCのDX戦略
同社では近年DX推進に力を入れています。本部業務などのIT化もさることながら、店舗のマーケティングにおいてもDX推進・システム企画開発委員会を立ち上げ、積極的にデジタルマーケティングを取り入れています。
KFCが力を入れているデジタルマーケティングの一つに「Googleマイビジネス」があります。これは、Googleで「地名×飲食店」を検索した際、マップ上に店舗などが表示されるサービスです。
同サービスの最大の特徴は、店舗側やユーザー側のさまざまな要素=アルゴリズムを加味した上で、ユーザーにとって最適な店舗情報を表示する点にあります。従来の飲食店のマーケティング手法としては、企業側から一方的に情報発信を行うマスマーケティングが主流でした。一方、Googleマイビジネスは、ユーザー個人の特性やニーズを踏まえたパーソナライズドマーケティングのロジックを取り入れています。
Google社は同サービスにおけるアルゴリズムの詳細について公表していません。しかし、影響度合いが高い要素の一つに「ユーザーの位置情報」が挙げられます。
この「ユーザーの位置情報」というマーケティング要素は、コロナ禍においてより重要性が増しています。在宅ワークや巣ごもり需要で、ユーザー側は遠方の飲食店を検索するケースが少なくなりました。そして、自分の現在地(主に「自宅近く」)からの距離を主軸とした検索を行うことが多くなりました。
こうなるとスマートフォンの位置情報を補足した上で、ユーザーが求めるキーワード(業態や料理名)にマッチする店舗情報(パーソナライズされている)を表示するGoogleマイビジネスが非常に有利になります。
KFCはこのGoogleマイビジネスに対しても、戦略的に取り組んでいます。
その一例を紹介します。皆さんのスマホに表示されているGoogleの検索窓で「ケンタッキーフライドチキン」と検索してみてください。近くに店舗があればGoogleマップ上にKFCの店舗が表示されているはずです(マップボタンを押す必要があるケースもあり)。
次に、マップ上に表示されたKFCの1店舗をタップしてみてください。店舗詳細ページが表示されます。そこから下にスクロールしていくと、KFCのキャンペーン情報などが表示されます。
実はGoogleマイビジネスでは、こうした情報発信がとても重要になります。細かいアルゴリズムについては、かなりマニアックな話になるので割愛しますが、端的に言うと定期的に最新情報を発信している店舗の閲覧数が増える傾向があります。同社では約1週間に1回程度、全店で一斉にこうしたコンテンツを配信し続けることで、店舗近隣商圏内のユーザーに対するPRを継続的に行っているのです。
当社でも数多くの飲食店のGoogleマイビジネス活用戦略のお手伝いをしていますが、ここまで同サービスを徹底活用できているブランドはまだまだ少ないのが実情です。そうした意味では、KFCは商圏内のデジタルマーケティングにおいてもかなり優位に立てていると言えます。
しかし、たとえ情報発信力が優れていても、商品力が低ければ継続的な顧客の支持を得られません。逆に商品力の低い企業が、マーケティングを強めることは「不満足の宣伝」をしているのと一緒なのです。
創業からの手作り製法を守りながらも、ブラッシュアップを続けている唯一無二の看板商品「オリジナルチキン」、コロナ禍でも効果を発揮した「2階層マーケティング戦略」、ユーザー特性を加味した「DXマーケティング戦略」。これが、コロナ禍という未曽有(みぞう)の経済状況の中でも好業績を達成している理由です。
最後まで記事をお読み頂きありがとうございます。本記事が少しでも皆さまのご参考になれば幸いです。
著者プロフィール
三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う。最近では東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタントや青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった飲食店支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。
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