コストコはなぜ安い? コンビニ並みの商品数に隠された秘密:奥村美里「あの企業の意外なビジネスモデル」(3/3 ページ)
「魅力的な商品が安く手に入る会員制のスーパーマーケット」——。コストコといえば、皆さんはこのような印象を抱くのではないでしょうか。前回のQBハウス記事に引き続き、コストコの意外なもうけ方・それを可能にするビジネスモデルや経営戦略についてひも解いていきたいと思います。
販売数を伸ばす「試食」
コストコは売れ筋商品特化により、ボリュームディスカウントを効かせているので、一商品あたりの販売数を伸ばさなければいけません。どうやって一商品あたりの販売数を伸ばすのかというと、そうです、コストコといえばでおな染みの「試食」です。
試食なんて、そこまでの購入インセンティブとはならないだろう……。そう思った貴方、試食は侮ってはいけません。試食は味を試すだけでなく(1)人の流れを遮る(2)返報性の原理が働くためです。
(1)について。コストコでは広い通路で大きなカートを押しながら、店内を練り歩きます。カートが大きいゆえ、顧客心理としてお目当てのもの以外は素通りしたいものです。その足止めをすべく、試食が牙城となり顧客の店内滞在時間を伸ばしています。
(2)について。返報性の原理とは「他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければいけないという感情が湧く(Wikipediaより)」ことを指します。試食の効果は、まさにこれに尽きます。皆様もおそらくよく感じるでしょうが、試食をしたら薄からず「無料で食べさせてくれたから買ってあげたいな」と思っているはずです。さらに心理学者によると、返報性の原理による試食効果は購入率を2倍にするともいわれています。
こうしてコストコは、商品数を絞りながらも、その商品当たりの販売数を伸ばすことで大量発注した商品をさばくことができるわけです。
しかし、試食をするにしても人手が必要です。特にリテール業界は人材の流動性が高く、かのコストコでも一定数の人員を確保することはそう簡単なことではありません。では、どうやって試食含め販売の人員を確保しているのでしょうか。
試食含め必要箇所に人的リソースを充てる手段として、「倉庫型にする」ことが挙げられます。倉庫型にすることで、バックヤードから店頭に移動する人員を省くことができます(それゆえに広い天井に商品を敷き詰め、フォークリフトで棚卸ししています)。
コストコは店舗自体をバックヤード兼店頭にあたる倉庫型にすることで、販売促進に最大限人員を割り当てることが可能となっており、ヒトという資源の分配がビジネスモデルにひも付いているわけです。
筆者プロフィール:奥村美里
3万人のTwitterフォロワーに向けて「知っていたら話したくなる企業分析」を毎日発信中!意外な儲け方で一線を築く小売企業やTech企業、IPO企業が大好きです!
Twitter @OkumuraMisato
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