今、いきなり!ステーキが「大復活」の兆しを見せている理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
いきなり!ステーキは、にわかに”大復活の兆し”を見せている。これはペッパーフードサービスにおける半年間の株価推移を見れば明らかだ。同社の株価は、5月半ばから上昇に転じ、今では1月の安値から2倍以上となる512円で推移している。
度重なる撤退や、肉マネーの廃止、そしてペッパーランチ事業の譲渡……いきなり!ステーキについてのニュースを見ると、2017年の立ち食いステーキブームの火付け役となり、時代の寵児(ちょうじ)となった面影はもはや失われている。
急速な全国展開とブームの終えん、後発企業との競争があだとなり、18、19、20年といきなり!ステーキを運営するペッパーフードサービスは赤字続きとなった。ピーク時の同社株価は7000円台だったが、上場廃止のイエローカードともいわれる「疑義注記銘柄」に指定されたことや債務超過状態に陥ったこともあって、21年の1月中旬には240円まで売り込まれていた。
そんないきなりステーキを巡っては、5月21日のペッパーフードサービスにおける社内報で、グラム単位で販売する肉カットの際に、顧客の注文より少しだけ多く肉を切り分ける方法を紹介したとして現在進行形で炎上中だ。
ほかにも、肉マイレージや会員カードのシステムに大幅な変更を加え、「改悪」と顧客に非難されたり、同社の電子マネー「肉マネー」を廃止したりと、ヘビーユーザーからの批判の声が根強いなどネガティブな話題も飛び交っている。
嫌われ者「いきなり!ステーキ」に復活の兆し?
しかし、そんないきなり!ステーキは、にわかに“大復活の兆し”を見せている。これはペッパーフードサービスにおける半年間の株価推移を見れば明らかだ。同社の株価は、5月半ばから上昇に転じ、今では1月の安値から2倍以上となる512円で推移している。
「企業の凋落(ちょうらく)」という話題が衆目を集めやすいのは確かだが、それでも冷静に同社をみていくと、いきなり!ステーキの敗戦処理が大方片付いた結果、悲願であった同社の黒字化がおぼろげながら見えてきた。モバイルオーダーの導入など、想定よりも早期の黒字化も達成できるかもしれないという思惑もあり、今株価が急騰している。
ペッパーフードが5月に公表した決算資料によれば、21年の12月期の売上高は22.3%減となる241億円だが、最終益は5400万円と、4年ぶりの黒字となる見通しとなっている。
確かに営業利益単体ではマイナスで、厚生労働省の雇用調整助成金といった営業外利益のゲタ込みで、最終黒字予想が出てはいるが、営業損失自体も前年の40億円から3億6400万円に大幅圧縮されている。それだけでなく、21年は現状8.6億円の営業赤字が出ているが、期末にこれが3.6億円の営業赤字に縮小するということは、向こう2四半期に限っては5億円ほどの営業黒字が生まれてくる可能性もあるということだ。
そもそも、ペッパーフードの赤字は、不採算店舗の撤退にかかる一時的なコストの高まりで、これまで数字上は大きく見えていたが、一度撤退が終われば残るのは採算性のある店舗のみということになるため、黒字化のための前進と捉えられる。
また、一般に改悪とされるいきなり!ステーキの目玉でもあった各種の還元システムを見直したことも経営上は評価すべきである。今回はあまり触れられていない肉マイレージ改悪の経営効果について深掘りしたい。
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