“大赤字”日産が、契約社員の正社員化に踏み切ったワケ 期間工は対象外:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
日産自動車は同社の拠点で雇用する事務職約800人の契約社員を、原則全員正社員として登用することを決定したという。日産が契約社員の正社員化に踏み切った背景には、どんな要因が隠れているのだろうか。
日産自動車は同社の拠点で雇用する事務職約800人の契約社員を、原則全員正社員として登用することを決定したという。
なお、「全契約社員の正社員化」という情報がなかば一人歩きしている節があるが、実際は「期間工」と呼ばれる「製造現場で働く有期契約の契約社員」は対象外となっている点に注意が必要である。対象は、国内主要拠点で勤務する人事や会計等の業務に従事する事務職であり、今回はこの分野で雇用維持を目的としているとみられる。
同社はカルロス・ゴーン被告の逮捕以降、同氏の負の遺産に苦しめられている。2021年3月期の決算についても6150億円の最終赤字を見込んでおり、前期の6712億円と同じレベルの巨額赤字となることが見込まれる。
その最中で決定された“正社員化”であるが、これは日産自動車の事業構造改革計画「NISSAN NEXT」で発表された「18年比で3000億円の固定費削減」と一見矛盾する方針だ。なぜなら、人件費等が含まれる「一般管理費」は15%の削減対象となっているなかで、契約社員から正社員への登用は一般的に一般管理費の増加要因となるからだ。
日産が契約社員の正社員化に踏み切った背景には、どんな要因が隠れているのだろうか。
危機をリストラで乗り越えてきた日産
日産といえば、1999年に資本提携した仏・ルノー主導の「日産リバイバルプラン」と、それに伴う工場の閉鎖、および2万1000人の大規模リストラの印象が強い。実際に翌00年に社長の座についたゴーン氏は、これまでの日産が抱えていた2兆円以上の有利子負債をわずか3年のうちに完済。この劇的なV字回復は「ゴーン・マジック」とも呼ばれ、彼の世界的な経営者としての名声をより確固たるものとした。
99年度に発生した6844億円の最終赤字が、翌00年には3331億円の最終黒字。わずか1年で1兆155億円もの増益を果たしたのである。まさにマジックといっても差し支えないだろう。なぜなら、売上高は99年と00年で1125億円しか増えていないからだ。
ゴーン氏の狙いは、リストラや工場閉鎖に伴う特別損失を99年に集中させることで、会計上の“谷”を作り出すことにあった。99年には、拠点の閉鎖やリストラ人員に対する割増退職金などの支給による損失が集中し、7497億円もの特別損失の谷が生まれることとなった。
これが、1兆155億円の増益の大半を占める6689億円の増益効果を翌年にもたらした。
経営悪化時は、このように大規模なリストラを短期で実施し、いったん経営環境をより悪化させることで、前年比でのV字回復を演出する“プロ経営者”が活躍する場面もある。海外では米・GE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチ氏もリストラによるV字回復によって、プロ経営者としての名を広めた。
日産は、冒頭のように契約社員についての雇用維持を図るが、それと同時に1万人以上のリストラを並行で手掛けているのが現実だ。「NISSAN NEXT」ではインドネシアやスペインの工場閉鎖などに向けても動いており、雇用維持とゴーン氏の負の遺産解消のバランスを図っている格好となっているのだ。
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