“大赤字”日産が、契約社員の正社員化に踏み切ったワケ 期間工は対象外:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
日産自動車は同社の拠点で雇用する事務職約800人の契約社員を、原則全員正社員として登用することを決定したという。日産が契約社員の正社員化に踏み切った背景には、どんな要因が隠れているのだろうか。
回復続く自動車業界
実は、足下では自動車業界は回復が示唆されている。日産が今回の正社員化に踏み切ることができたのも、レガシーの解消が進んだことや、マーケット環境の回復という要因も織り込んでいる可能性がある。
先週14日に日本銀行が公表した「地域経済報告」(さくらレポート)では、日銀各本支店から地域の自動車産業について報告が集約されている。
雇用・所得関連の報告では、「世界的な自動車需要の回復により休日出勤が必要になるほど操業度が上昇しており、 現場従業員の残業時間は前年を上回る水準まで回復している」。輸出に関しては「自動車部品の輸出は、中国向けが増加しているほか、米国や東南アジア向けも上向いている。完成車メーカーによって多少の差はあるものの、全体としてはほぼ感染拡大前の水準まで持ち直している」といった具合でポジティブな報告が相次いだ。
海外の動向をみると、感染拡大がいち早く落ち着いた中国向けの輸出自動車の持ち直しが著しく、国内の消費についても、ボーナス落ち込みによる影響こそあれ、新型車の投入による押上効果による持ち直しのほうが色濃く現れてきた形となっている。
特に、都心部以外の地域では自動車は生活必需品に近い性質を持っていることも需要の下支えに貢献している。コロナ禍でも通勤や買い物のために自動車を購入する動きは存在する。現に、トヨタとホンダでは今季の営業利益の予想値を1.5〜2倍程度上回る大幅な上方修正を行っており、自動車業界全般で回復基調であることが示唆される。
ただし、足下では感染第三波と、2度目の緊急事態宣言の発出によって再び軟調な業界推移となる可能性があり、注意が必要だ。そうであるとしても、冒頭の“正社員化”決定は緊急事態宣言が発出された後の発表である。
コロナでは雇用維持がカギ?
感染拡大が抑えられた地域への輸出の回復がコロナ前並みになったという日銀の報告から考えると、自動車に対する潜在的な需要は依然として存在している中で、本来であれば既に自動車を保有している人々がまだ保有できていない状況であることがうかがえる。つまり、需要が市場から消失したのではなく、需要が“凍結”されている状態というべきだろう。
そして、コロナ禍がどれほど後を引くかは定かではないものの、パンデミック的な感染爆発は歴史的にも数年以内で落ち着きを取り戻していることから、凍結される需要もそこから反動増として生まれてくるはずだ。
そのような展望にもとづけば、経営効率化や団結感醸成のために、契約社員を正社員化するという施策は合理的であると考えられる。とりわけ、ライバルであるトヨタやホンダの業績回復が著しい。人材流出を抑制し、コロナ禍終息後の事業展開を安定化させるためにも、日産は一定の契約社員について“正社員化”に踏み切ったといえるだろう。
しかし、現場の期間工や製造の契約社員などについては今回の正社員化の対象外で不安定さが残る。今回の報道によって自動車技術を支える現場工員への待遇についても、現場から改善を求める声が上がってきそうだ。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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