電通が史上最大の巨額赤字……高くついた「のれん代」の恐ろしさ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
電通グループが15日に発表した2020年12月期の通期決算によれば、当年における最終赤字は同社としては史上最大の1595億円となった。しかし本業では黒字である。最大の要因は、海外事業における「のれん」の減損損失1403億円だ。
森喜朗会長の辞任と後任人事のもたつきによって、ただでさえコロナ禍で開催が危ぶまれている東京オリンピックの先行きは一層不透明になっている。ここで、東京オリンピックの開催に社運がかかっている企業がある。それは大手広告代理店の電通グループだ。
電通グループが15日に発表した2020年12月期の通期決算によれば、当年における最終赤字は同社としては史上最大の1595億円となった。今期の連結業績や配当政策については予想値の公表を見送るなど、21年についても油断ができない状況である。
しかし、同社の決算内容を見ると、本業では黒字である点に注目すべきだ。電通グループのセグメント別で見た営業利益は国内事業で約724億円の黒字で、海外事業では約683億円の黒字となっている。
コロナ禍によって4月以降に広告出稿が減少し、オリンピックが延期されたことで電通は大きな影響を受けているものの、本業部分での大幅なマイナスはみられない。それでは、この度の巨額赤字をもたらした要因は何なのだろうか。
「事業構造改革費」と「のれん」が響く
まず、収益を圧迫した要因の一つが、国内外における「事業構造改革費」およそ784億円だ。これは、人員を削減する際にかかる割増退職金や、借り手となっているにもかかわらず物件が稼働していない不動産のリース契約から見込まれる損失等が含まれる。また、電通は21年1月に全社員の約3%にあたる230人を個人事業主化したが、この施策を実施するためにかかった費用についても事業構造改革費用としてのしかかった形となる。
しかし、今回の巨額赤字における最大の要因は事業構造改革費ではない。最大の要因は、海外事業における、のれんの減損損失1403億円だ。
のれんとは、電通が買収を進めた企業価値のうち、無形の営業資産が占める部分を指す。具体的には、その会社の持つブランドや取引先関係、ノウハウや営業権など多岐にわたる。
例えば、中古のギターは定価からいくらか割り引かれた価格で取引されるだろうが、同じ中古のギターでも、著名なミュージシャンがライブで使用していた中古のギターでは、市場価格を上回る価格で取引されるイメージに近い。このような価値観は、企業買収の際にものれんとして同様に現れる。場合によってはその会社の知名度やブランドといった、のれんの部分が買収価格の大半を占めるケースもあるほどだ。
電通は国内でも有数の「のれん保有企業」でもある。同社は13年からM&Aによる海外展開を急速に推し進めた。とりわけ、13年の英大手広告代理店のイージス買収では、4700億円ほどの「のれん代」を支払ったとみられている。
しかし、イージスののれん部分でもあるグローバル販路を活用することで、企業価値を大きく高めることに成功した。このように、会社の価値を上回る値付けで買収したとしても、イージスのようにのれんをうまく活用できれば、高いのれん代を補って余りあるシナジー効果を生み出すことができるのだ。
しかし、のれんは時に買収企業に深刻なダメージを与えるほどの力を持つことがある。
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