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電通が史上最大の巨額赤字……高くついた「のれん代」の恐ろしさ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

電通グループが15日に発表した2020年12月期の通期決算によれば、当年における最終赤字は同社としては史上最大の1595億円となった。しかし本業では黒字である。最大の要因は、海外事業における「のれん」の減損損失1403億円だ。

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恐ろしいのれんの「減損」

 「のれんの減損」で記憶に新しいのは、日本郵政と東芝の事例だろう。日本郵政が17年に、3200億円の最終黒字から、民営化以降初の最終赤字となる400億円のマイナスに転落した際には、買収した豪物流企業における4000億円にものぼる、のれんの減損が響いた。16年に東芝が一時的に債務超過に陥った事例も、米原発企業のウエスチングハウスののれん7125億円が減損処理の憂き目にあったことによる。

 そもそものれんの「減損」は、買収の際に見込んだ成長率やシナジー効果が当初の期待より低く、投資した金額を回収できそうにないときに、その価値の剥落(はくらく)を会計に反映させる手続きのことだ。収益性が減少したことによる損失のため、減損という。

 減損処理は不動産などの有形資産にも適用されるが、無形ののれんについては価値算出が難しく、一歩間違えれば大幅な減損処理を強いられるリスクがある。

 そのため、日本の会計基準では、のれんのような無形の資産も有形の資産と同じく費用化し、最大20年で減価償却することとなっている。しかし、この方式ではのれんの償却費用がEPS(1株当たり利益)を押し下げ、株価上昇を阻む要因になるデメリットがある。

 したがって、M&Aをメインに企業価値を高める戦略をとる企業は、のれんを償却しないIFRS(国際会計基準)方式の会計方法を取ることが多い。電通もイージスの買収後、IFRSに切り替えたため、のれんの償却は義務ではなくなった。

 しかし、IFRS方式では、それまで順調に見えた業績がのれんの減損によっていきなり大幅な赤字に転落することで、投資家にネガティブサプライズをもたらしやすいデメリットがある。今回の電通の決算でも、事前の業績予想を大幅に上回る赤字が発生したが、これもIFRS方式による部分もあるだろう。この点について、国際会計基準審議会ではIFRS方式によるのれん償却の義務化の是非について検討を進めている状況だ。

 電通がこの度の巨額赤字に転落した要因は、買収対象会社への期待が、コロナ禍によって剥(は)げ落ち、数字となって表れてきたことにある。しかし、減損処理自体は、それを乗り切ることさえできれば立て直しが可能な一時的なものでもある。

 コロナ禍中では電通グループの多くが前年同期比でマイナス成長となったが、デジタルマーケティングを手がける電通デジタルや情報テクノロジーを活用したソリューションを手がけるISID(電通国際情報サービス)はそれぞれ前年同期比10%を超える成長を記録している。人員整理や電通本社ビルの売却など、経営のスリム化と、デジタル分野における事業の展開が今後の鍵になってくるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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