デジタル時代でも、感動を与えるのは店舗──中川政七商店、ユナイテッドアローズのCDOが語る哲学:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 これからの小売り論(4/4 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、中川政七商店 取締役CDOの緒方恵氏と、ユナイテッドアローズ 執行役員CDOの藤原義昭氏。小売り企業のDXを最前線で進めてきた二人が、今あらためて考える店舗の価値、ECの意義とは?
うまく行かない会社はKPIが悪い
長谷川: みんながみんなそうならいいんだけど……。
藤原: それがちゃんとできている組織だと思えたから、僕はユナイテッドアローズに入社したんですよ。
長谷川: でも、どうしてもそうは思えない企業もありますよ。社内で足の引っ張り合いをしてるような企業は、なぜそうなってしまうんでしょうか?
緒方: うまくいかない企業を突き詰めると、KPI設計が悪い。
利益の追求も大事ですが、みんながそこに集中してしまったら、足の引っ張り合いになるでしょう。全員がお客さまの方を向いて働けるようなKPIに設計すれば、「お互い頑張ろう」となるはずです。そこはもうやるかどうかと思うのですが、そもそもKPI、目的設定を真面目に考えていない企業は少なくありません。
藤原: 足の引っ張り合いは、見方を変えれば、みんなが成果を出したくて一生懸命努力しているということ。目的設定と評価を見直すことで、個人やチームの頑張りが良い方向に働く可能性は十分ある。ここをうまく接続するのがボードメンバーの役割だと思います。
長谷川: 多くの企業が、社長の子飼いだけでボードメンバーをそろえて、自分の能力を超える可能性がある人材をはじいてしまう。特にサラリーマン気質の人が集まった会社はそんな気します。
そんな会社にお二人がいたら絶対に鬱陶しがられる。お二人はトップが考えた業績を超えることを言い出して、超えちゃう可能性があるような人たち。1990年代から2000年当初でいくと、俺の好きな人はみんな事業部長止まり。それよりも上にいった人は、ごますりが得意で「そうですね、そうですね」と言っているような人たちですよ。
でも、もう時代は変わったから、お二人には「どこかでトップ張ってやる」みたいなのをちょっと期待してますね。
緒方: 僕は社長になりたいとは思わないかな。そもそも何をしたいとか自己実現欲求がない。中川政七商店に入ったのも、中川淳さんと一緒に仕事がしたいと思ったから。
僕は、誰とやるかが一番重要なんです。「誰」が欠損してると例え自分に向いてる仕事でも楽しくない。
社長にできることは限られています。松下幸之助だって、経営者に必要なのは、「自分より優れた人を使えることだ」と言っているくらいです。
長谷川: 俺も脇に天才をそろえたいと思うタイプ。「難しいことは頼むわ」みたいなね。
緒方: 長谷川さんはしっかりと方向性を示すことができる人ですよね。「ここに行くぞ、行き方は任せた」って。
だから、東急ハンズ時代、僕らは迷わずまい進できた。いつも「また無茶振りしやがって」と思っていたけど、快適でした。
長谷川: 二人は、「絶対社長になるやん軍団」と思ってるんだけどなあ(笑)。
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