日清食品をデジタル化した“武闘派CIO”が退職──今振り返る、日本企業のちょっと不思議な働き方:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 武闘派CIOの仕事論【前編】(1/3 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、3月末に日清食品を退職し独立した喜多羅滋夫氏と、CIO Lounge 友岡賢二氏。「武闘派CIO」を名乗り、変化の時代にもがくIT部門の先頭で背中を見せてきた3人が、仕事論について語り合う。
連載:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」
東急ハンズCIO・メルカリCIOなどを務め、現在は独立してプロフェッショナルCDO(最高デジタル責任者)の道を進む長谷川秀樹氏が、個性豊かな“改革者”をゲストに酒を酌み交わしながら語り合う対談企画。執筆はITライター・ノンフィクション作家の酒井真弓。
プロフェッショナルCDO(最高デジタル責任者)の長谷川秀樹氏が、改革者と語り合う本対談。今回のゲストは、3月末に日清食品を退職し、独立した喜多羅滋夫氏と、CIO Lounge 友岡賢二氏。「武闘派CIO」を名乗り、変化の時代にもがくIT部門の先頭で背中を見せてきた3人だ。
喜多羅氏は2013年、日清食品グループ初代CIOに就任し、ERP(統合基幹業務システム)導入を皮切りに、レガシーシステム刷新やクラウド活用、テレワーク環境の構築など日清食品のデジタル化に尽力した。
その過程でIT部門を戦略部門へと変革し、20年8月に日清食品は、経済産業省と東京証券取引所によって「DX銘柄 2020」に選出された。DX銘柄とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務、組織を抜本的に変革し、競争力につなげている企業を選定するもので、20年は同社を含む35社が選ばれている。
8年間CIOを勤めた日清食品での日々や、これまでの働き方を振り返り、喜多羅氏が今だからこそ考える仕事論を聞いた。
日本企業は「多神教」
長谷川: 日清食品におけるCIOの役割って何だったんでしょうか?
喜多羅: 日清食品は、安藤百福がチキンラーメンを発明し、カップヌードルを発明し、それらを長く主力商品としてやってきた会社です。社内には、「余人をもって代え難し」、代替がきかないスペシャリスト集団として強みを発揮していこうというカルチャーが受け継がれています。
商品開発なら商品開発のエキスパートがいるし、生産なら生産のエキスパートがいます。例えば、麺を作る際の水の量は、気温や湿度、製品群によって微妙に変えています。少し間違えると麺がプチプチ切れて工場のラインが止まったり、廃棄が増えてしまったりする。ここに実はものすごい匠の技があるんですよ。
長谷川: すごいですね。
喜多羅: ただ、「余人をもって代え難し」というカルチャーは、言い換えれば「他人の領域には立ち入らない」ということ。各部門にスーパーマンがいて、その人たちを尊重しながらやっていかないといけない。
システムの観点で言えば、さまざまなオペレーションが縦割りで、全体最適の視点欠けていたんです。
友岡: 日本企業は「多神教」なんですよね。生産部門の神様、購買部門の神様、商品開発の神様など、各部門に神様がいる。しかも、それらの神様には序列がなく、連携もしない。
このようなプロフェッショナルを束ねるには、軸を通す人が必要です。当然、上から物を言ってもうまくいかない。横串で刺そうとしても決して真横には刺さらない。斜め下くらいから軸を通してつないでいくことがCIOの仕事。
喜多羅: そうですね。CIOの役割は、購買や製造の過程に口出しすることではありません。最終的には判断するのは各部門です。
CIOの仕事は、それぞれの部門が的確な判断を下すために必要な情報や、判断の精度を上げるための方法を一緒に考え、提案し、サポートすることです。
「会議」に見る、外資系企業と日本企業の違い
長谷川: 喜多羅さんはP&G、フィリップ モリスと外資系企業を渡り歩き、日清食品が実質初めての日本企業でしたね。外資系企業と日本企業では何が違いましたか?
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