日清食品をデジタル化した“武闘派CIO”が退職──今振り返る、日本企業のちょっと不思議な働き方:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 武闘派CIOの仕事論【前編】(2/3 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、3月末に日清食品を退職し独立した喜多羅滋夫氏と、CIO Lounge 友岡賢二氏。「武闘派CIO」を名乗り、変化の時代にもがくIT部門の先頭で背中を見せてきた3人が、仕事論について語り合う。
喜多羅: 一概には言えませんが、日本企業の方が人間関係を重視し、関係性の中で意思決定がされていく傾向はあると思います。リーダーが「ここを目指す」と言ったら、皆で同じ方向を向こうとする。つまり、日本企業は「誰が言ったか」が判断基準になるケースが多々あるのではないかと。
一方、外資系企業は、誰が言ったかではなく、ファクトに対して議論していく。
議論は外資系企業の方がはるかに荒れます。でも、会議が終わると皆さっぱりしてるんですよね。なぜなら、人に対してではなく、ファクトに対して議論しているからです。
友岡: 学校教育でディベートの機会があるので、議論の内容と人格を切り離して考えられるんですよね。日本の教育を受けてきた人が英語で議論しても、こうさっぱりとはならないことが多い。
日本人には難しいですよね。日本には「言霊」という考え方があり、言葉に人格が組み込まれてしまう。意見を否定すると、発言者の人格まで否定しているかのように感じられてしまいます。
喜多羅: 変わりつつあるとはいえ、日本の場合、一社で長く働くケースが多いです。社内で勝った負けたを繰り返しながら、「彼は右と言っているが実は左や」なんて、非常にハイコンテクストな組織なんですね。
一方、外資系企業は基本的にプロジェクト単位で寄せ集められたチーム。コモングラウンドがない。だから、初めに皆でチームビルディングをする。
長谷川: 僕は新卒アクセンチュアなんですが、グローバルの新入社員が集まった最初の研修で「皆で力を合わせて一つの目標に向かっていこう」という趣旨のアニメを観せられました。
当時は、「そんなところから言わないと分からないのか、子供っぽいな」と思っていました。日本なら、言われなくても当然のことじゃないですか。
でも今思えば、あうんの呼吸に期待するのではなく、このように合意形成をしていくプロセスを重んじるのは、ミッションベースの仕事をしていく上で非常に重要なことだと感じています。
友岡: 日本企業における合意形成のプロセスは独特です。後から文句が出るのが嫌なので、取りあえず関係ない人も集めて、「ああでもない、こうでもない」と時間を掛けて固めていく。それで、いざ「これ誰がやる?」となると押し付け合いが始まるんですよね。
なぜそうなるかというと、「誰がどんな役割でチームを作るか」が先で、「そのチームが何をするか」が後に来るから。この順番が外資系企業と逆なんだよね。
筆者: 会議中「ただ座っているだけ」の人がいることも多いですよね。
喜多羅: 「なぜ、日本のベンダーはキックオフに18人も来るんだろう」というようなことはよくありますね。
でも、彼らもただ座ってるわけではないんです。万が一、質問が出たときに即答できるようそこにいることが彼らにとっての礼儀なのかなと。僕らからすれば、「あなた方が会議に出た分、見積もりから引いてくれないかな」と思ったりするわけですが(笑)。
本当は必須メンバーだけ参加して、何かあれば後で聞けばいいんです。実際、外資系企業の多くは、「8割押さえてまずは進もう」というスタンスです。しかし、日本企業は初めに「こういう場合はどうする」「ああいう場合は」と、懸念点を徹底的につぶしていかないと先に進めない。
友岡: 反対に、社長一人でぷらっとリュック抱えて来るようなベンダーは信頼できることが多いですね。
喜多羅: 人に聞かなくても、その社長が全て分かっているわけですからね。
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