市場は7割減! “スーツ離れ”を断ち切ることはできるのか:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
スーツ市場が苦戦している。ピーク時(1992年)に比べて、販売数が7割ほど減少しているが、どうすれば回復することができるのか。筆者の窪田氏は……。
目立たないことが何よりも大事
このような話を聞いても、「社員がみな同じスーツを着る」ことに抵抗のある人も多いことだろう。
スーツとは大人のオシャレというか、社会人として自立していることを体現するファッションである。それを制服などに変えてしまったら、個性や自由な雰囲気が奪われてしまうのではないか。そのような心配をされる方もいらっしゃるだろう。
しかし、残念ながらそれは「幻想」だ。この日本において、スーツはもともと「制服」である。時代を経て、原点に戻ったというか、ルーツに立ち戻っただけの話なのだ。
国立公文書館アジア歴史資料センターのWebサイト「戦前と戦後の男性のファッションはどう変わったの?」というQ&Aの中で、日本のスーツについて以下のように述べられている。
「スーツは全ての場所で着用可能な、いわば大衆服になったといえます。このように、近代化・西洋化の進展とともに、男性ファッションの洋装化が進みました。その契機は、図らずも、戦時中の国民服の普及だったのかもしれません。全ての場所で着用可能という国民服の機能が、そのままスーツへと受け継がれていったからです」
国民服というのは、1940年に「国民服令」によって定められた標準服。戦時中の男性たちがみな着ていた中国の人民服のようなものだ。
なぜ戦時中の日本が国民に「制服」を着せたのかというと「一体感」のためであることは言うまでもない。「聖戦完遂」という同じ目標を目指すため、同じ服を着て、同じように日本のために働く。そこには「個性」などまったく必要ない。だから、国民服はシンプルで色も地味だった。目立たないことが何よりも大事だった。
日本の男たちはそういう「没個性の制服」を24時間365日身にまとっていた。働くときも、食事をするときも、余暇を過ごすときも国民服だった。そういうスタイルが骨の髄まで染み込んだ人々が戦争に負けた後、サラリーマンとしてスーツを着始めた。といっても、国民服に慣れているので自由にオシャレなどできるわけがない。人気となったのは、没個性のグレースーツ。国民服のように同じスーツを着て満員電車で通勤する姿は「ドブネズミルック」と揶揄(やゆ)された。
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