【解説】ウォルマートのIoTは、何がすごいのか:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(1/3 ページ)
ウォルマートの業績が好調だ。背景にはIoT活用があるという。同社のIoT戦略や運用の何がすごいのか、またコロナ禍でどのようなことに役立ったのか。解説する。
連載:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線
小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。
前回の記事では、ウォルマートのIT戦略について、データとAIの観点から紹介しました。今回は、同社がIoT(Internet of Things)に関してどのような投資や運用を行っているのかを見ていきます。
ウォルマートは、2020年のコロナ禍で業績を伸ばし続け、5590億ドル(約61兆円)の営業収益を上げました。IoTは、この大躍進を支えるものの一つです。同社はIoTにより、タイムリーな店舗機能の調整を行い、食品の品質を保ち、エネルギーの無駄な消費を抑えています。
ウォルマートのIoTシステムでは、毎日15億ものメッセージを取り込み、1TB以上のデータを分析できるそうです。また、同社が管理するIoTデータポイントの数は米国内の店舗で700万以上にものぼります。
テクノロジー担当ヴァイスプレシデントのSanjay Radhakrishnan氏は、インタビューで以下の通り「IoT戦略の3つの柱」を紹介しています。
(1)ウォルマートの大規模な店舗展開に合わせた、大規模なIoTにすること
(2)データがどこに流れ、どのような意思決定に使われるのかをコントロールすること
(3)消費者体験につながる形でIoTを導入すること
ウォルマートで活用しているIoTデバイスは、取引先のベンダーやOEMメーカーがそれぞれ作っており、さまざまなサプライチェーン上で導入されていました。そのため、各デバイスから収集されるデータがバラバラな形式で集まっており、データを正規化することが課題だったということです。
正規化とは、データの冗長性をなくしたり、統一形式に整形したりすることによって、データを扱いやすくすることです。ウォルマートはデータを収集したあとに正規化を行い、より迅速に意思決定に役立つ示唆に変換し、現場担当者などのエンドユーザーに届ける必要がありました。
私が以前、IoTデバイスを製造、開発している日本のメーカーから聞いた話によると、デバイスから集められるデータを使って、その上の解析レイヤーのサービスを提供したいと考えるデバイスメーカーは多くいるそうです。
なぜなら、より付加価値が高いサービスが顧客に提供できるからです。単にデバイスを販売するだけでなく、その後の使用環境に関するデータをデバイスから集め、機械学習モデルなどを搭載して、デバイスの異常値の検知や、故障予知などを実施したい、という考えです。しかし、ここでデータの正規化の課題にぶつかるデバイスメーカーが多いのもまた事実です。
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