EVの行く手に待ち受ける試練(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
電動化を進めようとすると、極めて高いハードルとしてそびえ立つのがバッテリーの調達である。バッテリーの調達に関しては、大きく分けて問題が2つある。ひとつはバッテリー生産のひっ迫、もうひとつはバッテリー原材料となる鉱物、とくにレアメタルの絶対的不足である。
200GWhから1000GWhへ?
ちなみに2020年の車載用リチウムイオンバッテリーのグローバル総生産量はおおよそ200GWhといわれているのだが、驚くべきことにニュースが伝える各社の生産目標を合計すると、そこに800GWhもの新規生産が追加されることになる。なお、数量や場所など具体性がなく、増産だけを伝えるニュースは省いたし、公式発表されていないものも当然あるだろう。
なので、まあどう少なく見てもトータルの増産量は1000GWhを越えるだろうし、多ければ1500GWhとかに達するかもしれない。問題は現状の200GWhですら、原材料が足りないといっている中で、バッテリー生産工場だけそれだけ拡大してしまっても、常識的には稼働できない。例えるなら、「ご飯の量が足りないので、炊飯器を大量に導入しました。お米の調達はまだです」。という話である。
もちろん一時に全社がそろって生産を開始するわけではない。生産開始の年限はそれぞれ異なるだろうが、現状のバッテリーのひっ迫具合からして、「そのうち」程度にノンビリ構えている会社はないだろう。他社より少しでも早くということになるはずだ。
しかし、果たして、世界各地にこれだけの工場が新規に立ち上がって、生産を維持するだけのレアメタルが本当に供給されるのだろうか? これに関する疑義は筆者が長らく唱えてきたことだ。
「バッテリー価格は下がっているのでBEVは安くなり、内燃機関のクルマを購入する経済合理性は無くなる」。EV支持派の人は長らくそんなことばかり言い張ってきた。しかし彼らの論拠は、変化の傾きの延長線を描くだけ。要するに微分だけで見ている。「5年で20%下がった」からこの先もずっと20%ずつ下がっていくなんて考え方はおかしい。「ゼノンのアキレスと亀」を引き合いに出すまでもなく、等比級数は現実の世界では有限で考えなければならない。バッテリーが部材原価より安くなることは論理的にあり得ないのだから、閾値(いきち)が設定されるべきである。
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