EUが2035年に全面禁止検討 エンジンは本当に消滅するのか:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
7月中旬、EUの欧州委員会は2035年にEU圏内でのエンジン車販売を禁止する方針を打ち出した。マイルドハイブリッドやフルハイブリッドも禁止される見込みだ。つまり、現時点ではバッテリーEVとFCVしか認められないという方向だ。
欧州自動車メーカー、中国、そして日本の思惑
ハイブリッド車を排除したいドイツメーカーにとって、今回のEUの方針には同調できる部分もあるだろう。メルセデス・ベンツは30年までに全車をEV化すると発表しており、これが実現すれば35年規制の影響は受けないことになる。現時点で企業別燃費規制であるCAFE規制の罰金が多額に上ると思われるだけに、電動化が急務であることも背景にあるだろう。
フォルクスワーゲンにとっても、CAFE規制による罰金は利益を消し飛ばしてしまうほどのものだ。だが、アウディやポルシェ(実質的には同一グループだが)は、富裕層向けにeフューエルの販売を行うことを考えているから、エンジンが使えなくなることでこうした計画は見直さなければならなくなるかもしれない。
芸術的なまでに排気音にこだわるマセラティや、官能的なエンジンフィールを誇るフェラーリなどイタリアのメーカーは、動力がモーターだけになることに全面的に賛成しているわけではないだろう。もっともマセラティが属するFCAとフランスのPSAグループと合併し、ストランティスとして30年までに7割をEVとプラグインハイブリッド車にシフトさせると発表したばかりだった。今回のEUの法案によってさらに電動化を進めるのは間違いだろう。
単にバッテリーEVを強制すれば、前述のように中国製の安いEVが市場を席巻しかねない。それは日本の自動車メーカーにとって脅威であるだけでなく、欧州メーカーにとっても避けたい事態であるはずだ。
もっともエンジン車が販売禁止となったからといって、バッテリーEVしか販売できないようになると思うのは早計だ。50キロから100キロ程度のバッテリーによる巡航距離を確保したプラグインハイブリッドであれば、実質的にはほぼバッテリーEVということから販売が認められる可能性は高く、加盟国や欧州議会での議論でも検討されることになりそうだ。これはエンジン擁護派にとっては明るい要素ではないだろうか。
つまりハイブリッド車のバッテリー容量を増やし充電機能を追加すればプラグインハイブリッドに進化できるから、ハイブリッド車を全車プラグイン化すれば規制をクリアできる可能性もある。しかしこれらは楽観的な見方だ。
これにはネガティブな要因もあるからだ。もしプラグインハイブリッドの販売が認められたとしても、ガソリンスタンドの拠点数は大幅に減少することは避けられないから、利便性の問題や輸送コストが単価に占める割合が増え、ユーザーがプラグインハイブリッドを選択しなくなる可能性もある。
そうなると商品としてラインアップすることはできても販売は伸び悩み、自動車メーカーの業績を圧迫するだけになってしまうから、実際はバッテリーEVに収束されてしまうことになる。これは悲観的シナリオだ。
だがエンジンを諦めれば、バッテリーの争奪戦はますます激化して、国内で材料の調達ができない日本の自動車メーカーやバッテリーメーカーのリスクが高まることにつながる。海外生産比率を高めることになれば、国内の雇用は減少し、人手不足を下回ることで経済が破綻へと向かうことになってしまう。
楽観的シナリオとしては、リチウムに代わる電池材料の実用化だ。ナトリウムイオンバッテリーは、リチウムほどの性能を引き出すことは難しいと考えられてきたが、近年性能の改善が著しい。ナトリウムは海水に含まれるため、日本でも水素と並んで無尽蔵に存在する。
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