「偶発性を生むオフィスは存在しないが、偶発性を生み出すことはできる」 オカムラ中村雅行社長が明言する理由とは?:アフターコロナのオフィス論(2/2 ページ)
新型コロナウイルスによって逆風にさらされていたオフィス関連市場。オフィス家具のオカムラも苦境に陥っていた。しかし、蓋を開けてみると21年3月期の通期連結決算は過去最高益を達成。コロナ禍で新しいオフィス需要を育てたことが功を奏した。アフターコロナのオフィスは「偶発性」がキーワードになるかもしれない。そんな考えを一刀両断するのがオカムラの中村雅行社長執行役員だ。「偶発性を生むオフィスは存在しない」そう話す理由とは?
偶発性を生むには「仕掛け」が必要不可欠
――アフターコロナのオフィスは「創造性の高い仕事のための場所」「偶発性を生む空間」という考えが浸透してきているかと思います。オープンスペースを多く確保したり、フリーアドレスにしたりと周囲の人とコミュニケーションを取りやすくする工夫が施されていますが、オフィスのレイアウトや家具を変えただけで本当に偶発性は生まれるのでしょうか?
オフィスのレイアウトや家具を変更しただけではおっしゃるような「偶発性」は生まれないと考えています。確かにラウンジを作ったり、フリーアドレスにしたりすることで、部署間の気軽な相談などがしやすくなり、多少の効果は期待できます。ただ、会社の柱となるような新しいビジネスの芽が生まれるかといえば疑問は残ります。
例えば、米国のニューヨーク州にロックフェラー大学があります。生物・医学系の研究機関としては世界屈指の大学院大学で、ノーベル賞受賞者を20数人輩出している有名校です。そこの研究棟はコラボレーションエリアというカフェテリアのようなスペースを中心に研究室が立ち並んでいるそうです。研究に疲れた研究者たちがリラックスしようとコラボレーションエリアに集まってきます。そこで、研究で行き詰まっていることを共有し合い、解決の糸口を見つけて、また自分の研究室に戻っていく。そうやってロックフェラー大学の研究は発展してきたといわれています。
この事例は、彼らがレベルの高いスペシャリストであること、また研究棟の構造そのものが研究を加速する目的で作られているというのがポイントです。特定の分野に特化したスペシャリスト同士が知恵を出し合うことで面白いプロジェクトが生まれるのは当たり前です。しかし、一般的なビジネスパーソンが日々「偶発性が高まるであろう」オフィスですれ違うだけでは、新しいビジネスの誕生は期待できません。
そこには意図した出会いや仕掛けが必要です。各部署から優秀なメンバーを集めプロジェクトベースで仕事をさせたり、社員が抱える課題意識に対して自発的にスペシャリストに話を聞きに行かせたりなどオープンスペースで議論が活発になる働きかけが求められます。
オフィスはあくまで場所として存在するだけです。「偶発性を生むオフィスにする」という目的に対し具体的なアクションを取ることが必要なのです。
――ただ単にオフィスを作るだけでなく、新たな仕掛けを加える必要があるということですね。そこが難しいポイントかと思うのですが、どう進めていけばいいのでしょうか。
まずはオフィス設計の目的を見直し、社員が働きやすいオフィス環境を用意することだと考えます。例えば、米国にはファシリティマネジメントと呼ばれる、社員が働きやすいようなオフィス環境を企画、運営する仕事があります。「社員が働きやすいオフィスを作ったか」が彼らの評価指標に組み込まれているのです。
日本でもファシリティマネジメントの注目度は高まってきており、現在は経済産業省の協力のもと、日本経済新聞と一般社団法人ニューオフィス推進協会が「日経ニューオフィス賞」という取り組みを推進しています。新しいオフィスづくりの普及・促進を図ることを目的に、創意工夫を凝らしたオフィスを表彰する制度です。
こういった取り組みは増えてはいますが、ただオフィス改革の流れに便乗するのではなく、偶発性促進のための「運営」もセットでなくてはけません。プロジェクトベースの仕事や部下への働きかけなどの仕掛けを通じて社員同士の交流を活発化させるなど、意識的に偶発性を生み出し続ける運営が必要不可欠なのです。
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