海外メディアは日本の「コンビニ」をベタ褒めしているが、外国での普及が難しいワケ:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
東京オリンピックが開催され、選手たちの間で、日本のコンビニや自販機などが話題になっている。海外メディアがベタ褒めして、「五輪レガシー」になりそうなモノはなにか。
もしバイトの時給が1700円になったら
日本人は「まあそんなもんじゃない?」と思うだろうが、コロナ禍でも着々と賃上げが進む先進国の感覚では、これは殺人的な低賃金だ。例えば「劣悪な労働環境」だと従業員から不満の声が上がっているアマゾンは従業員の最低賃金を15ドル(約1700円)と定めている。しかし、これでも地域によっては、「家賃が払えないからホームレスになるしかない」という労働者が出ている。
もしバイト店員の時給が1700円になったら、日本のコンビニのビジネスモデルが成り立つだろうか。工場でおにぎりや弁当を作る従業員、ルート配送するドライバーもこのような欧米並みの賃金になったら、現在のような豊富な品ぞろえと、安くて高品質な商品を提供できるだろうか。
できるわけがない。
海外メディア、特にスポーツ取材をしているような人たちは、このような現実を知らない。だから無邪気に「日本のコンビニは天国だ」とベタ褒めしてくれるが、実はその天国は、地獄のような低賃金で働かされている人たちの犠牲によって成り立っている。このようなビジネスモデルは世界で広められない。というよりも、日本の恥をさらすようなものなので、広めるべきではないのだ。
というと、「日本のコンビニは既に海外進出しているぞ」と反論をする人もいるだろう。確かに、セブン-イレブンはもともと米国発祥なので、かの国ではそれなりに店舗があるが、米国人が日本のセブンに驚いているように、商品やサービスの充実度は、日本とまったく異なる。
低賃金労働によって高サービス・高品質を実現する「日本流コンビニ」のビジネスモデルを異国で展開するのは、非常にハードルが高いのだ。ファミマは米国や韓国に進出したが撤退しており、主に中国、台湾、タイで展開している。ローソンも中国では3000店舗以上を展開するが、中国進出して25年でようやく黒字化している。
中国やアジア諸国でこれだけ苦戦しているのに、賃金の高い欧米で通用するわけがない。つまり、多くの外国人がベタ褒めする日本のコンビニは、先進国で最低レベルの低賃金である日本だからこそ実現できているものなので、いくら世界にアピールしたところで「輸出」できないものなのだ。
日本の特殊性という観点で言えば、「自販機」文化を世界に広めるのもハードルが高い。
今回、選手村やメディアセンターなどで置かれた自販機が、五輪グッズや日本の伝統的な土産物が買えるため「日本にはいろいろな自販機がある」と誤解している外国人アスリートやメディア関係者が多いが、実際は6割近くが飲料自販機で、残りは3割がコインロッカー・自動精算機。食品や物販の自販機は約7%だ。
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