“日本一高い”北総鉄道は値下げできるのか 「やはり難しい」これだけの理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
千葉ニュータウンを走る北総鉄道は日本一運賃が高い鉄道の1つ。理由は膨大な建設費が運賃に乗っていたから。しかし6月23日発表の決算には、2022年に累積損失を解消、値下げを検討するとある。値下げされても残念ながら相場より高い運賃が続く懸念がある。そこで筆者が、確実に値下げする方法を考えてみた。
京成電鉄は丸もうけしているわけではなく、運行する列車について北総鉄道に線路使用料を払っている。だから北総鉄道は損をしないだろう、という考え方だ。線路使用料はアボイダブルコスト方式といって、その列車が走ったときに発生する費用になる。レールや架線が摩耗したぶんだけ、使った電気代だけ。利益は乗せない。ただし、京成電鉄の列車が走ることで北総鉄道に機会損失も発生するから、そのぶんは上乗せするという。
つまり、北総線内の乗客の運賃を京成電鉄が吸い上げる代わりに、補てんは実施する。ただし、スカイライナーはもともと北総線で走っていなかったから補てんはしない。スカイライナーが走ったらそのぶんの経費は払われる。走らなかったら線路使用料は発生しない。スカイライナーが走っても右から左へ経費が流れていくだけで、北総鉄道の利益にならない。
京成電鉄がガラガラの電車を走らせても経費分+αしか支払われないし、満員御礼の電車を走らせても経費分+αしか支払われない。乗客が北総線だけを使っても、特急停車駅間なら京成電鉄が売り上げの何割かを持っていく。商売をしたい人がいるから軒先を貸しても、もうけの配分は雀の涙というわけだ。
それでも北総鉄道は黒字である。なぜなら運賃が高いから。千葉ニュータウンに住み、都心に通勤・通学してくれる人々が、高額な運賃を払ってくれたおかげである。そして京成電鉄が北総鉄道に対して「生かさず殺さず」の枠組みを維持してくれたからだ。北総鉄道は千葉県や沿線自治体が出資する第三セクターだけど、出資比率の過半数は京成電鉄である。京成電鉄グループの子分だ。親分に大事にされている鉄道である。
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