“日本一高い”北総鉄道は値下げできるのか 「やはり難しい」これだけの理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
千葉ニュータウンを走る北総鉄道は日本一運賃が高い鉄道の1つ。理由は膨大な建設費が運賃に乗っていたから。しかし6月23日発表の決算には、2022年に累積損失を解消、値下げを検討するとある。値下げされても残念ながら相場より高い運賃が続く懸念がある。そこで筆者が、確実に値下げする方法を考えてみた。
値下げして乗客1割増の「神戸地下鉄北神線」
参考までに最近の例を挙げると、北総鉄道と同様に「日本一高い鉄道」と呼ばれた北神急行電鉄の改革がある。神戸市営地下鉄「西神・山手線」の終点、新神戸駅と神戸電鉄有馬線の谷上駅を結ぶ路線で、途中駅はなし。総延長は7.5キロメートル。ほぼ全区間が六甲山地を貫くトンネルだったこともあり、やはり建設費が膨大だった。運賃は370円。「西神・山手線」と直通運転しており、谷上〜三宮間は550円だった。
神戸電鉄有馬線から三宮方面を短絡するルートとして建設されたけれど乗客は増えなかった。年間1億円から3億円の利益を確保しつつ、累積債務をコツコツと返済していた。しかし神戸市が英断し、北神急行電鉄の資産を譲受して市営地下鉄北神線とした。谷上地区を含む北区の人口減少対策、さらには開発の再チャレンジのためだ。
すべて地下鉄区間だから運賃は下がる。「西神・山手線」と通算になり、新神戸〜谷上間が280円と90円安くなった。谷上〜三宮間も同じ運賃区分のため280円で、ほぼ半額になった。神戸新聞NEXTの21年6月1日付記事「『日本一高い』北神急行、運賃値下げで乗客1割増 市営化から1年」の見出しにあるように、乗客は1割増えた。新型コロナウイルスの影響で全国的に乗客数が減っていることを考えると、乗客増は大成功だった。
北区の人口は増えていないというけれど、それこそ新型コロナウイルスの影響だ。落ち着けば移住する人も増えるだろう。私が乗ったときの印象では、神戸電鉄有馬線沿線は緑の多いニュータウンという印象だった。もちろん有馬温泉もある。私が子どものころは関東でも「有馬兵衛の向陽閣」のCMが流れていた、あの有馬温泉である。地下鉄のおかげで都心に近く、温泉も緑もある。魅力的なニュータウンではないか。
千葉ニュータウンは開発が停滞していたとはいえ、現在は優良住宅地として認知されているようだ。成田スカイアクセスの開通、自治体による情報通信産業の誘致成功、ロードサイドの大型店開業でにぎわってきたと聞く。京成電鉄がむしろ千葉ニュータウンの発展に積極的に参加すべきではないか。そのために北総線を再構築する価値はあるだろう。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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