高卒には「職業選択の自由」がない? 大卒より高卒の採用が難しい理由:相馬留美の「今そこにある商機」(5/6 ページ)
高校生向けの「就職合同説明会」をご存じだろうか。記者は現場に足を運んだところ、企業の話を聞くために、教師と制服姿の高校生がたくさんいたわけだが、そもそも高校生の就職はどのようにして決まるのだろうか。ちょっと調べると、過去の“遺産”が残っていて……。
リクルートも寄り付かない不毛の地「高卒市場」
15年8月、ジンジブは高校生に特化した求人メディア「ジョブドラフトNavi」を立ち上げることにした。簡単に言えば、高卒版「リクナビ」である。
ただ、リクルートが高卒市場に参入していないのには理由がある。もうからないからだ。広告掲載料は取れたとしても、学校を通じた一人一社ルールでは、紹介手数料で稼ぐビジネスが成り立たない。また、もともと高卒者は大卒者よりも少ないため、市場として小さい。
それでも、他ではやっていないサービスであるため、高卒採用に興味を持ってくれた企業が出稿し始めた。とはいえ、システム構築にも金がかかる。「6年で7億円損した」と佐々木さんは苦笑いだ。
そもそも、なぜ一人一社ルールが続いているのか。佐々木さんは、「三者にとって都合がよかったから」と指摘する。ここでいう三者とは、先に述べた就職協定をつかさどる行政(文部科学省・厚生労働省)、経済団体(経団連など)、学校団体(全国高等学校長協会)のことだ。
「まず、文科省は学業を優先したい。厚労省は就職をさせないといけないので、ほぼ内定が取れる今の仕組みを変える必要性を感じない。学校団体は進学のほうに力を入れているため、全体の2割程度の就職組に時間をかけず、絶対に受かるところを受けさせるほうが楽なんです。自由応募になるとめちゃくちゃ手間がかかりますから。
また、経済団体には製造業が多い。大卒からブルーカラーの人材を確保するのはとても難しく、高卒からそれを補いたいという意図がある。そうして誰も仕組みを変えることがなかった。でも、当事者にとって一番いいルールにしないといけない」(佐々木さん)
サービスを運営するのと並行して行政へも働きかけた。「高卒者には憲法で守られた『職業選択の自由』がないのではないか」と主張を続けた結果、19年には厚労省で「高等学校就職問題検討会議ワーキングチーム」が立ち上がり、第2回の同会では佐々木さんも関係者として提言を行った。その結果、一次応募の時点から複数応募・推薦を可能とするパターンも文科省から提案され、21年度から和歌山県では複数社応募が可能になるなど、変化が見られる自治体も出てきた。
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