「中田翔システム」は企業の知恵なのか 問題社員は「新天地」に飛ばしてリセット:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
日本ハムから巨人に移籍した中田翔内野手にモヤモヤしている人も多いのでは。移籍後、すぐに一軍で活躍できたことに違和感を覚えたと思うが、こうした方法は会社でもできるのだろうか。結論から言うと「できる」。
中田選手と巨人の今後
今のままでは子どもたちに、野球の世界では「後輩いじり」や「暴力」が咎(とが)められたら、「反省しておけばいい」くらいの問題だという誤ったメッセージを与えてしまう。中田選手の巨人移籍を美談のように持ち上げるマスコミ報道を見て、野球少年たちはこう思うはずだ。
「結局、結果さえ出せばいいんだ。ゴチャゴチャうるさいことを言っても、ホームラン一発で批判していた連中も黙らせられるじゃん」
そして、そういうスポーツとしてのイメージは、長い目で見ればマイナスだ。「野球って中田選手みたいなヤンチャな人が幅を利かせている世界でしょ」というのが定着すると、ファンも素直に応援できなくなる。親も子どもにやらせたいと思わない。スポーツ最大の魅力である「フェアプレー精神」という要素が色褪(あ)せるので、世間の「野球離れ」が進行してしまう。
異動で問題をサクッと先送りできる中田翔システムは、企業の危機管理としても魅力的な選択に映るが、長い目で見ると不利益も多い。勝てば官軍で、中田選手の暴力事件は何事もなかったように吹き飛ぶのか。それとも、この問題先送りがジワジワと巨人や球界を蝕(むしば)むのか。
そのような意味では非常にいい危機管理のケーススタディなので、企業の担当者はぜひ、中田選手と巨人の今後に注目していただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 「オレが若いころは」「マネジメント=管理」と思っている上司が、ダメダメな理由
「オレが若いころは……」「マネジメントとは管理することだ」といったことを言う上司がいるが、こうした人たちは本当にマネジメントができているのだろうか。日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた澤円氏は「そうしたマネージャーは、その職を降りたほうがいい」という。なぜかというと……。 - エースの「背中が蒸れないリュック」は、なぜ売れているのか
暑い夏。リュックを背負って「汗ばむなあ」「蒸せる」と感じたことがある人も多いのでは。こうした問題を解決するために、バッグメーカーのエースは「蒸れないリュック」を開発した。どういった機能が搭載されているのかというと……。 - 発売前に現行モデルの5倍! パナの電動工具が売れに売れている理由
パナソニック ライフソリューションズ社の電動工具が売れている。新ブランド「エグゼナ」を立ち上げて、フラッグシップモデル「Pシリーズ」を発売したところ、販売目標を大きく上回る結果に。売れている理由を取材したところ……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「安いニッポン」の本当の恐ろしさとは何か 「貧しくなること」ではない
新聞やテレビなどで「安いニッポン」に関するニュースが増えてきた。「このままでは日本は貧しくなる」といった指摘があるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしていて……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.