イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗:小売・流通アナリストの視点(5/5 ページ)
イオングループのスーパーにもかかわらず、トップバリュ製品を売らない新業態「パレッテ」。高品質が売りのヤオコーが新たに仕掛ける、低価格業態「フーコット」。両社の狙いはどこにあるのだろうか?
ヤオコーによるフーコットを首都圏郊外マーケットの細分化による開拓と位置付けるなら、イオングループのパレッテも、首都圏16号線内側エリアの価格志向の新たな顧客開拓と考えられる。首都圏内側のマーケットには、オーケーやロピアといった大型店タイプの強力なDSが既に存在していて、一見レッドオーシャンのように感じられるが、必ずしもそうではない、とイオンは分析しているであろう。
首都圏中心部においては、クルマで買い物をする人の比率は圧倒的に低く、若年層、単身世帯層はクルマ離れ、そして急増する高齢者層はこれから免許を返上することになる。大都市の「買い物機動力」はこれからどんどん低下するため、遠くにある大型店に行くよりも、近くで必要最低限のものを安く買えることを望む人が急速に増えるのである。そうしたすきまのマーケットを狙って、イオンは新業態を投入して布石を打ち始めたのであろう。
パレッテの売り場の広さは300〜400坪くらいで、首都圏郊外で見ても、そう大きなサイズではない。周辺には少しづつライフ、サミットなどの大型食品スーパーや、オーケー、ロピアといった大型DSが増えつつあり、このサイズの既存スーパーやドラッグストアが閉店するケースも散見される。
パレッテはこうした既存店舗の居抜きを想定しているようであり、大型店進出のすきまを埋めることで、新たなマーケットを開拓する可能性はありそうだ。今はあまりお客の少ない店という風に見えるが、もともとマーケットのすきまを埋めるために、採算が合うオペレーションコストを設計しようとしているのかもしれない。
イオングループは、首都圏でコンビニサイズの地味なミニスーパー「まいばすけっと」を一から作り上げ、10数年が過ぎた今、その店舗数は900店以上、売り上げは約2000億円のチェーンに育てた実績がある。地方から全国展開したイオンは、いまだに首都圏に関しては存在感が大きいとはいえないが、それだけにこの市場に対する執念は大きいと思われる。一見、あまり客の入っていない店だと安心していると、10年後にはパレッテに周囲を囲まれているかもしれない。
新刊のお知らせ
当連載著者である中井彰人氏の新刊『図解即戦力 小売業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)が8月25日に発売されました。詳しくはAmazonや書店などへお問い合わせください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「国道16号」を越えられるか 首都圏スーパーの“双璧”ヤオコーとオーケー、本丸を巡る戦いの行方
コロナ禍で人口流出が話題となる首都圏だが、「国道16号線」を軸に見てみると明暗が大きく分かれそうだ。スーパー業界も16号を境に勢力図が大きく変わる。そんな首都圏のスーパー業界勢力図を、今回は解説する。
マツキヨ・ココカラ不振の裏で、「肉・魚・野菜」の販売にドラッグストア各社が乗り出す納得の理由
コロナ禍の追い風が吹いたドラッグストア業界の中でも、売り上げ減だったマツキヨ・ココカラ。その背景には何があったのか。また、ドラッグストア各社でなぜ、「生鮮食品」の販売が広がっているのか。
加盟か、独立か? 波乱のスーパー業界、今後は「卸売業」こそがカギを握ると思えるワケ
コロナ禍で好調のスーパー業界だが、今後は卸売業がその行く先を担うと筆者は主張する。その理由とは
“買いすぎ防止”スマホレジを導入したら、客単価が20%上昇 イオン「レジゴー」の秘密に迫る
イオンのレジに革命が起きている。買い物客が貸し出し用のスマートフォンを使い、かごに入れる前に商品をスキャン、専用レジで会計する「レジゴー」だ。スキャンにかかる時間は約1秒。レジでは決済のみを行うため、レジ待ちの渋滞も起きづらい。常に商品の一覧と合計金額が確認でき、利用者にとっては買い過ぎの防止にもなるレジゴーの導入で、客単価が向上したという。その理由を聞いた。
約150台のAIカメラで何が分かるのか イオン初の本格スマートストアの全貌
イオンリテールが運営する「イオンスタイル川口」は、デジタル技術を駆使した同社初の「本格的なスマートストア」と説明する。一体どのようになっているのか
