シフトレバーの「N」はなぜある? エンジン車の憂うつと変速機のミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(1/4 ページ)
シフトレバーのNレンジはどういった時に必要となるのか。信号待ちではNレンジにシフトするのか、Dレンジのままがいいのか、という論争もかつては存在した。その謎を考察する。
札幌のスーパーで、道路に面した駐車場のクルマが無人のまま動き出し、車道へと進み出してしまう様子を映した他車のドライブレコーダーの動画が、ネットニュースで注目されたことをご存じだろうか。
あわや走行中のクルマと激突、という場面でドラレコ車両のドライバーが駆け付けて止め、事無きを得た。その後、店内から自分のクルマが動いていたことに気付いた高齢ドライバーが現れてクルマを止め直したらしい。
おそらくこの高齢ドライバーは、駐車時にパーキングブレーキを使わず、Pレンジにシフトしてエンジンを停止させるだけなのか、Nレンジにシフトしてパーキングブレーキを使わなかったことから、道路の傾斜で自然発車してしまったようだ。
高齢ドライバーによる操作ミスの一例ともいえる事件だが、そもそもPとNの違いについて、理解しているドライバーは意外と少ないようだ。Pはパーキング、すなわち駐車時に使用するものだと理解しているだろうが、それならNレンジは何のために存在するのだろうか。
そもそもクルマは、エンジンをアイドリングさせながら動力を伝えない状態を変速機内部に作る必要がある。それは信号待ちや、昔は暖機運転でエンジンや変速機、駆動系を温めて、オイルの粘度や部品同士のクリアランスを適切にしてから走行するためだった。しかし環境保護や燃費軽減のため、暖気運転はゆっくり走行しながら行う暖気走行が一般的になっているから、現在ではPやNレンジを暖気のために利用することはない。
例えば傾斜地での駐車など、パーキングブレーキだけでは拘束力が足りないシーンもある。この時、マニュアル車であればエンジンを停止してからギアを1速あるいはリバースに入れておくことで、エンジンの抵抗をブレーキとして利用できる。
ATはトルクコンバーターを介してエンジンに連結しているので、ロックアップクラッチが機能していない状態ではエンジンの抵抗は使えない。そもそもAT内部のギアも多板クラッチが油圧ゼロではつながらない(逆に作用するクラッチ機構もある)から、AT内部をロックしてパーキングブレーキの補助として利用する機構が必要なのだ。それがPレンジの役割だ。
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