シフトレバーの「N」はなぜある? エンジン車の憂うつと変速機のミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
シフトレバーのNレンジはどういった時に必要となるのか。信号待ちではNレンジにシフトするのか、Dレンジのままがいいのか、という論争もかつては存在した。その謎を考察する。
変速機は進化して存続しても、Nレンジは消滅か
現在の日本においてはマニュアル車は極めて少数派で、ATが9割以上と圧倒的な主流にあるが、クラッチのない2ペダルのクルマといっても、変速機の構造にはさまざまなモノがある。
遊星ギアを用いた一般的なATから、金属コマを薄板ベルトで連結させたCVT、マニュアルミッションの平行歯車式変速機を2つのクラッチで分担することで駆動力が途切れず自動変速を可能にしたDCT、マニュアルの変速操作を自動化したAMTなどが主だった自動変速機(AT)である。
中でも遊星ギアを何段も組み合わせたATは世界的に主流で、高い工作精度が求められることから、日本の得意分野の1つとなっている。ちなみにトルコンATという表現をよく見かけるが、正確にはトルクコンバーターはATではなくクラッチ機構であり、CVTにも搭載されている。
そしてガラパゴス変速機とまで呼ばれたCVTだが、ジヤトコはついに伝達効率を大台の90%に乗せてきた。その加速フィールや静粛性、耐久性などもかなり改善され、その変速比幅とコストから国際競争力を身に付けつつある。
一方で、ボタン式のATセレクターも増えてきたことから、Nレンジの役割は電動化と共に薄らいでいる。EVが主流になれば、変速機は存続してもNレンジは消滅し、かつてあった操作系として思い出のデバイスになっていくことだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
関連記事
- 高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。 - なぜハイブリッド車のエンジン始動はブルルンと揺れないのか
純エンジン車であれば、エンジン始動時にはキュルルルとセルモーターが回る音の後にブルンッとエンジンが目覚める燃焼音と共に身震いのような振動が伝わってくるものだが、ハイブリッド車にはそれがない。それはなぜなのか? - アイドリングストップのクルマはなぜ減っているのか? エンジンの進化と燃費モードの変更
アイドリングストップ機構を備えないクルマが登場し、それが増えているのである。燃費向上策のキーデバイスに何が起こっているのか。 - トヨタTHSは、どうして普及しないのか そのシンプルで複雑な仕組みと欧州のプライド
前回の記事「シリーズハイブリッド、LCAを考えると現時点でベストな選択」を読まれた方の中には、こんな疑問を持たれた方も多いのではないだろうか。「シリーズハイブリッドなんかより、シリーズパラレルで万能なトヨタのハイブリッドシステムを他社も利用すればいいのでは?」 - トヨタがいよいよEVと自動運転 ライバルたちを一気に抜き去るのか、それとも?
トヨタは最新の運転支援技術を採用した新機能「Advanced Drive」をレクサスLSとMIRAIに搭載。さらに、先日の上海モーターショーでは新しいEVを発表した。そして驚いたのは、トヨタが今さら水素エンジンにまで触手を伸ばしてきたことだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.