いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)
今回は、そのレアアース不足を前提にバッテリーがどの様な変化をしていくのかについて、考えてみたい。まずリチウムイオン電池というものはそもそもどういうモノなのかから説明をしないと話が分からないだろう。
内部でのショートは、複数の原因がある。もっとも一般的なのは異物混入、いわゆるコンタミである。サムソンのスマホGalaxyが発火したのはこのコンタミが原因といわれている。多くのセルが積層され、かつそれがコンパクトであることが求められると、極板と極板の間は可能な限り詰めたい。これをミクロン単位まで突き詰めるということは、ミクロン単位のコンタミがあったらその場で極板と極板がショートして過熱、発火することになる。極板と極板の間にはセパレータと呼ばれる薄膜が挟み込まれており、これがショートを防止するのだが、鋭利で硬い異物などであればこれを突き破ってしまう。
最も厄介なのは析出(せきしゅつ)だ。これは主に電解液の中に溶け出した金属が、例えばコンタミの小さな粒子の回りや、電極の周囲で、何らかの理由で固体化して発生する。尿管結石みたいなものができると思ってほしい。これが電極間をショートさせる。厄介なのはこの析出は、発火するまで発見が困難である点だ。そして、低温環境で起こりやすい。現在EV王国であるノルウェーあたりで、もしこの析出由来の発火事故が頻発するようなことになれば、EVの未来そのものが危ぶまれる。
あるいは過放電も析出の原因となる。不要になったバッテリー内蔵製品を放置したりすると、沈殿(ちんでん)や析出が発生して、ショート→発火にいたることがある。世の中にはかなりの台数の放置車両がある。数十年後、あれがEVだったら相当に危ないといえる。
外部ショートは、物理的事故と生産不良が多くを占める。例えば、高速道路で落下物に乗り上げるなどでバッテリーケースの一部が破壊されると、電気的につながってはいけないところがつながり、発熱発火に至る可能性が高い。最近の実例として、GMのシボレー・ボルトとフォルクスワーゲンのiD.3のLG製バッテリーは製造不良によって外部ショートを起こした疑いが持たれている。具体的には、バッテリーの生産時に、陽極のタブが破損した状態であったり、電極間を絶縁するためのセパレータが折れ曲がって積層されていたりというお粗末ぶりで、これはEV全体の問題というのは少し違うだろう。LGの製造管理上の問題である。
ただし、コストメリットをウリにしたメーカーの製品を安易に採用し、かつ生産量をどんどん増やせと圧力を掛けているという意味では、自動車メーカーも広義で、その製造不良に荷担しているともいえる。
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