「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病:スピン経済の歩き方(1/6 ページ)
「今日の仕事は、楽しみですか」――。JR品川駅内のコンコースに表示された広告が、批判を受けて1日で終了した。なぜ多くのビジネスパーソンはこの文言にイラっとしたのか。筆者の窪田氏がその背景を分析したところ……。
毎日すさまじい数のビジネスパーソンが行き交うことから「社畜川」などと揶揄(やゆ)されている、JR品川駅内のコンコース。そこに並べられた「今日の仕事は、楽しみですか。」というデジタルサイネージが、批判を受けて1日で終了になった。
「仕事なんだから楽しいとか、楽しくないとか関係ねえだろ」「凹んでいるときに見たらメンタルをやられる」という不快さを訴える声で炎上し、「社畜回廊」などという絶妙なネーミングもつけられて、コピーをイジる大喜利まで始まってしまった。
この結果は当然だ。実は企業の人事担当者の間では、日本人が世界でも有数の「仕事を楽しみにしていない国民」であることは、ずいぶん以前から常識となっている。
例えば、世界77カ国を対象に「考え方」を調べる「世界価値観調査」で、日本人は他のさまざまな先進国を抑えて、「余暇」が重要だと考える労働者が突出して多いことが分かっている。「ワーカーホリック」「企業戦士」などと呼ばれるが、実はそれは仕事が好きだからではなく、義務と責任で「嫌々働かされている」という現実が浮かび上がっている。
また、NHK放送文化研究所が1993年から参加している国際比較調査グループISSPでも、日本人の仕事の満足度はかなり低い結果が出ている。2005年調査での満足度は73%で、世界32カ国と地域中28位。15年の調査では満足度はさらに落ちて60%。「ああ、かったりい」「こんな仕事やりたかねえよ」と愚痴をこぼしながら重い足取りで職場へ向かう人がかなり多いのが、日本の特徴なのだ。「オレは仕事が好きでしょうがない、会社に行くたびにワクワクすっぞ」という意識高い系の方もおられるかもしれないが、日本人の「仕事嫌い」を示す調査は例を出せばキリがない。
さて、そこで気になるのは、なぜ日本人は他国の人よりも仕事を苦痛に感じているのか、ということではないか。
「日本人は生真面目すぎる」「働き方改革が進んでいないからだ」などいろいろご意見があろうが、筆者は「仕事」に対して、他国の労働者にはちょっと理解し難い、カルト宗教のような独自の信仰を持っているからだと思っている。
それは「人は金のためだけに、働いているわけではない」という強烈な思い込みだ。
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