ノーベル賞受賞者・真鍋さんの警鐘に危機感を覚えよ:好奇心に基づいた研究(2/2 ページ)
ノーベル賞受賞の真鍋さんは日本の研究機関と若い研究者の現状に心を痛め、「好奇心に基づく研究に立ち帰れ」と何度も叱咤激励していた。しかしこれは研究者個人に対するものではなく、本当は日本という国家への警鐘だ。
こうしてみると、真鍋さんのコメントの多くは、イノベーションを背負っているはずの日本の研究者が置かれている環境に関する、とてつもなく深刻な問題を浮き彫りにしているように思える。
好奇心に突き動かされて没頭したい研究テーマではなく、予算獲得しやすいという理由でそれほど好奇心のわかない研究テーマを選ばざるを得ない研究者が少なくないことを示唆しているのだ。そして研究テーマをよく理解できない国や上層部が気に入らない分野への予算を絞り、安易に方向性を変えさせてしまうことを示唆している。そんな状況では、潜在的にはインパクトがあるが世間的には理解されにくい研究を、生涯を賭けて追求しようとする若者が減ってしまうのは当然だ。
実際、日本の研究環境の悪化を嘆く本や記事はこの10年ほどで急増している。代表的なものとして『誰が科学を殺すのか科学技術立国「崩壊」の衝撃』(毎日新聞「幻の科学立国」取材班著)と、『イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機』(山口栄一著)を挙げたい(上記にはそれぞれ小生の感想をリンクしてみた)。
まさに真鍋さんの指摘の通りなのだ。あえて自分の好奇心に従う研究テーマにこだわった研究者は、十分な予算を獲得できないまま「干される」か、そもそも研究者としてのポジションを維持することすらままならないケースもあると指摘されている。そしてそうした状況は平成不況において顕在化し、アベノミクスによる景気小康回復期にもまったく改善するどころか、却って深刻化しているのだ。
これは、イノベーションの本質を分かっていないまま、大学を中心とする公的研究機関における研究予算を大幅に削って恣意的な分野に集中させてしまった政治家(その代表者がいわゆる「成長戦略」を仕切ってきたT中H蔵氏だ)と財務官僚の、とてつもなく深い罪だろう。20年先以降、日本人のノーベル賞受賞は絶望的だといわれる所以だ(研究発表年と受賞年には、概ね25年のタイムラグがあるため)。
さて、岸田新総理はその政策方針「成長と分配の好循環」における成長の3本柱の一つに「科学技術立国」を掲げている。イノベーションにより国と産業を建て直して成長を目指そうとする、その意欲と方向性は正しい。では具体策として、今の大学等の研究機関への国家予算配分のあり方がいかに近年の日本の研究機関からイノベーションの芽を殺いでいるかを直視し、正しい政策転換をしてくれるのだろうか。真鍋さんの警鐘に応えてくれるのだろうか。心ある人々は注視している。(日沖 博道)
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