買収する企業、される企業 2社の社内制度をどう融合? 人事がやるべきことリスト:突然のM&A その時、人事がキーマンになる(3/3 ページ)
M&Aで異なる2社を統合していくにあたっては、さまざまな社内制度や仕組みをどう折り合わせていくかが問題になる。双方の企業の了解を取り付けながら調整していくために、人事責任者にはどのようなアクションが求められるのか、解説する。
合併後の主な取り組み(PMIフェーズの人事施策)
ここであらためて再度、M&Aにおける組織・人事関連の主なアクションを下に整理しておく。経営層や人事責任者の方々は是非、下記の内容をご参考にしていただきたい。
M&Aにおける組織・人事関連の主要施策
(1)人事デューデリジェンス
入手可能な人事規程や人事データに基づき、対象企業の人員構成、役職構成、報酬体系と報酬水準、労務管理、労使関係、人材育成、人事オペレーションなど仕組みと運用実態を調査
(2)新組織体制の検討
- 組織階層、部門構成、役職構成などの設計
- 職務分掌、職務権限、業務分掌などの整備
(3)人事制度(等級・評価・報酬制度)の統合
- 資格体系や等級定義の統一
- 評価体系や評価運用ルールの統一
- 報酬体系(給与・諸手当・賞与)や報酬水準の統一
- その他労働諸条件や関連制度(福利厚生制度)の統一
- 人事制度の統合による人件費試算
- 現行制度から新制度への移行措置の検討
(4)退職給付制度の統合
- 一時金制度・年金制度の統一(スキーム、水準、積み立て方法)
- 退職給付制度の統一に伴うコスト試算
- 既存従業員の現行制度からの移行手続き
- 年金受託機関との調整
(5)コミュニケーションプランの策定
- 労働組合・従業員向けコミュニケーションプランの立案(いつ、誰から、どのようなメッセージを発信するか)
- M&A後の労働条件に関する従業員向け説明資料・個人別労働条件通知書の作成
- 従業員説明会・個人別通知面談の実施
(6)組織最適化・人員調整の対応
- 早期退職優遇制度の検討
- キーパーソン向けリテンション施策の検討
(7)企業文化・組織風土の融合
- 統合後の企業理念・行動指針の策定
- 融合プログラム・ワークショップの企画・実施
- 従業員向け研修の企画・実施
(7)人事オペレーションの統一
- 給与計算、社会保険、勤怠管理など運用ルールの統一
- 人事システムの統合
上記の通り、M&Aに伴う人事・組織関連のアクションは非常に多岐にわたる。そのうえ、これらを短期間で実行しなければないため、困難を伴う。当然、人事責任者の方々は通常の人事関連業務を抱えながら、同時並行でM&Aに伴う人事対応を進めていかざるを得ない。M&Aプロジェクトにアサインされた人事責任者は、配下のメンバーへの権限委譲を通じて通常の人事業務が滞らぬよう全体最適を図る指揮統率力や計画力も求められる。
第2回では、M&Aを実際に検討していくプロセスにおいて人事の観点からどのようなアクションが必要となるのかを解説した。次回は、M&Aにおける人事関連のアクションとして特に重要となる「人事制度統合のポイント」について詳しく解説する予定だ。
桐ケ谷優(きりがや まさる)
クレイア・コンサルティング株式会社執行役員COO。
1972年生まれ、慶応義塾大学文学部卒。人材ビジネス企業のパソナ、外資系コンピューターメーカーのデルにて 計 8 年間現場人事の経験を積む。その後、国内系人事コンサルティングファームを経て、02年クレイア・コンサル ティングに入社。総合商社、電機メーカー、エアライン、百貨店、ITベンチャーなど、幅広い業種・業界を対象 に人事制度の設計・導入や人材育成体系の構築等を手がけるほか、セミナー講演や雑誌への寄稿なども行う。
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