パワハラを「禁止」できない日本 佐川、守るのは加害者のみか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
パワハラによる自殺事件が後を絶たない。佐川急便では、パワハラの内部通報があったにもかかわらず、十分な対策が取られなかった。パワハラ防止法が施行されているのに、なぜこのような事件はなくならないのか──?
またもやパワハラで、大切な命が奪われてしまいました。佐川急便で働いていた39歳の男性社員は、上司からこのような被害を受けていたといいます。
- 別の部署の管理職からみんなの前で、朝礼で叱責される
- 「なめ切っている」「うそつき野郎はあぶりだすからな!」などのメッセージが送られてくる
- 直属の上司から「うそつくやつとは一緒に仕事できねえんだよ」と言われ、机の前に立たされて40分以上叱責を受ける
──など。
見かねた同僚が「2人の課長の行為はパワーハラスメントに該当するのではないか」と内部通報していたにもかかわらず、会社側は「パワハラを受けている人」を守ることをしませんでした。
その2カ月後、39歳の男性は「勤務先の営業所から飛び降りる」という選択に至ったのです。
報道によれば、内部通報を受けた同社の管理部門は、“2人の課長に”ヒアリングを行い、「パワハラは確認できない」と結論づけていたそうです。
まったくもってわけが分かりません。いったい何のための「相談窓口」なのか?
「パワハラをしている可能性がある人」に、「パワハラしてますか?」と聞いて「はい! しています!」と答えるとでも思っているのでしょうか? あるいは「パワハラじゃないかって通報があったんだけどね」と伝えれば、問題は解決するとでも考えていたのでしょうか?
そもそも「内部通告」した社員は「匿名」だったとされています。
私自身、「パワハラを通報したいのだけど、報復人事が怖い」という相談を何度も受けてきました。企業によっては「匿名」だと社内調査を行わない場合もあり、通報すらできない状況が存在します。
このリアルは、「パワハラ問題」をいまだに「される側に問題がある」という認識が企業側にあることを意味するとともに、「パワハラ問題の真意」を企業側が理解していないのです。
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