どうなるインフレ? 流動性相場はまだまだ続く(2/2 ページ)
昨今インフレが話題だ。米国ではインフレ率が急上昇し、国内でも原油高資源高の影響やガソリンや日常食品などで値上げが続いている。コロナ禍からの経済回復がまだ完全ではないなか、インフレが襲うと、不況下で物価上昇が起きる「スタグフレーション」の声さえ聞かれる。
5年は続く量的緩和の効果
インフレ懸念も一時的だとするなら、今後のマーケットはどう動くのか。市川氏は、「この先5年間は、そうそう流動性相場は終わらないだろう」と予想する。流動性相場とは、大幅な金融緩和によって市場にマネーがあふれ、経済活動に必要な水準を超えている状態の市場環境のことだ。余剰資金が株式などに流入しやすく、株高になりやすい。
流動性相場では、低成長、低インフレ、低金利がセットとなる。株式にとっては心地よい状態で、マネーは少しでも高いリターンを求めて金利の高いところに動く。いわゆるイールドハンティングだ。リーマンショック後、07年から20年までの13年間の主要アセットクラスのパフォーマンスを見ると、実は最も良好だったのはハイイールド債券だった。そこに先進国株式が続く。
なぜこの環境が続くかといえば、「量的緩和をいったん行ってしまうと、そう簡単に回収できない」(市川氏)からだ。
コロナ禍への対策として、各国中央銀行は国債などを購入して市中に資金を提供する量的緩和を大規模に実施した。これにより、例えば米FRB(米連邦準備制度理事会)の総資産残高は、コロナ前の4兆ドルから8兆ドルを超え、ほぼ倍増した。
先日FOMC(連邦公開市場委員会)は11月からのテーパリング開始を発表した。テーパリングとは資産買い入れ額を徐々に減らしていくことだ。とはいえ、ペースは落ちるものの資産を買っている状況は変わらず、FRBの総資産は積み上がったままだ。
市場の関心はテーパリングから利上げに移っているが、22年後半と予想される利上げが行われても、引き締め効果は薄いかもしれない。米国では、中央銀行が利上げを行う場合、銀行が短期の資金を融通し合う市場において、資金を吸収する調節を行うことで、金利を高めに誘導する手法が採られる。
しかし量的緩和によって市場に巨額の資金が供給された結果、余剰資金を抱えた銀行は、必要以上の準備預金をFRBに預けるようになった。その結果、15年から18年にかけて行われた前回の利上げの際には、資金吸収手法が使えず、金利に上限と下限を設定し、それを引き上げることで実施した。今回の利上げも、市場に資金がダブついている状況から、同様の方法になると見られる。
この手法の問題は、アップした分の金利を銀行はFRBからもらえることになることだ。そのため「量的緩和後の利上げはあまり引き締めにならず、金融市場が混乱する恐れは小さい」と市川氏は見る。
つまり、利上げ後も、前回と同様に株高、債券イールドカーブのフラット化、ドル全面高となる公算が高いということだ。そして、中央銀行に積み上がった資産は、株価が下落しても緩衝材の役割を果たす。
インフレ、テーパリング、そして利上げと、一見市場にネガティブに見えるワードが飛び交う昨今だが、それぞれを見ていくと、株高はしばらく継続しそうだ。
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