トヨタは、1800億円の部品代高騰をどうやって乗り切ったのか 原価改善のファインプレー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
すでにお聞き及びの通り、上半期決算でトヨタが過去最高益を記録した。ほんの2カ月前には、部品不足による生産調整で40万台規模の追加減産のニュースが飛び交ったにもかかわらずにだ。筆者も「さすがに今回は厳しいだろう」と考えていたのだが、話があまりにも変わって、少々頭の切り替えが追いつかない。一体トヨタはどうなっているのか?
原材料費値上がり1800億円を原価改善で乗り切る
さて、一体何が起きているのか? 手がかりとして「連結営業利益増減要因」を見てみる。
左から「為替変動の影響」が2500億円だが、まあこればかりは時の運で、企業努力の及ばない部分。その次の「原価改善の努力」がひとつのキーになる。あのトヨタが原価改善でマイナスを付けているのだ。
これこそ部品不足に起因する原材料費の値上がりで、純粋な原材料費値上がりは1800億円となっている。しかし不思議なことにそれがこのグラフではたったマイナス300億円になっている。トヨタが何をやったのかといえば、「加工」領域のコストダウンである。「原価改善」には「原材料仕入れ」と「加工」がある。仮に猛烈な勢いで下請けを締め上げたところで、毎年毎年厳しくコスト管理をしている原材料の値下げ幅など高が知れている。つまりトヨタの「原価改善」の原動力は「加工」工程の工夫によるコスト削減なのだ。
そしてこの加工領域のコスト削減を、トヨタはサプライヤーに伝授する。作り方を変えればコストは下がる。エンジニアがサプライヤーに赴いて、一緒に徹底して作り方改革を行う。それがやがて「原材料仕入れ」に跳ね返ってくるわけだ。
今回、部品不足の厳しい中で、売り手市場になった部品はまずコストダウンできない。もの作り改革以前に、コロナ禍で人手が不足して工場が稼働できない状態にあったからだ。動いていないものにカイゼンもへったくれもない。
トヨタは例年、内部基準として「原価改善」の目標を3000億円に置いているが、半期の1500億円を今回はほぼ自力だけでやり抜いた。1800億円の仕入れ原価増加を1500億円の加工費低減で押し戻した結果が、マイナス300億円ということだ。猛烈な値上げ圧力をほぼ引き分けに持ち込んだここが、今回のトヨタの隠れたファインプレーである。
ファインプレーというと派手で人目に付くものを想像しがちだが、あのイチローのプレーを見ているとそういうものばかりではないことがわかる。明らかにフェンス直撃の捕れるはずのないフライを、さも捕れるかのように手を挙げて、2塁ランナーを足止めしておいてから、一気にクッションボールを処理する。本来なら一点取られたところを、手を挙げる一動作で、ただの進塁打にしてしまう。地味もいいところだが、1点を守るファインプレーである。
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