トヨタは、1800億円の部品代高騰をどうやって乗り切ったのか 原価改善のファインプレー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
すでにお聞き及びの通り、上半期決算でトヨタが過去最高益を記録した。ほんの2カ月前には、部品不足による生産調整で40万台規模の追加減産のニュースが飛び交ったにもかかわらずにだ。筆者も「さすがに今回は厳しいだろう」と考えていたのだが、話があまりにも変わって、少々頭の切り替えが追いつかない。一体トヨタはどうなっているのか?
購買数量予測の正確化でサプライヤーを巻き込む
さて、次に「営業面の努力」だ。ここは今回各社軒並み良好な成績を挙げているが、トヨタはまた金額が大きい。この項目には、ざっくりいって2つの要因がある。ひとつはサプライチェーントラブルに起因するタマ不足によって、値引きをする必要が無くなったこと。売り手市場なので、「値引いてくれないなら他社のクルマを買う」というユーザーの伝家の宝刀が使えない。嫌でも渋い値引きになるので、その分販促費がダウンする。
しかし、このメカニズムも放って置いて自然にそうなるものではない。タマ不足が酷すぎれば誰も買わなくなる。「納車は再来年です」と言われて注文書にサインするお人好しはいない。そもそも全てのメーカーがタマ不足の中で、値引かずに販売していくためには、他社より早く生産を再稼働させなくてはならない。やがて各社が普通に生産できるようになれば、ユーザーは再び伝家の宝刀を抜くからである。
ではどうしてトヨタは他社より早く、生産を再開できたのか? それの原因は、サプライヤー各社に通達する購買数量予測の正確化にある。他社より細かく、長期にわたる予測を立て、通達した数量の受け入れを厳守する。仮に「所詮は他人事」とばかりに、後になって「やっぱりいらない」などと無責任に言えば、オオカミ少年と判断されて、真剣に対応されなくなるのだ。
メーカーは、通達した数量をサプライヤーが用意できなければ罰金を科す。そういう鞭(むち)があるから、サプライヤーは日常的には約束を守る。しかし、仮に全員残業体制で必死に増産した部品を「やっぱりいらない」といわれたらサプライヤーは堪ったものではない。残業人件費は当然割り増しが伴うし、納品できなくなった部品は宙に浮いて、資金の回転が悪くなる。そういうマイナスは、結局のところコストアップにつながり、メーカーに返ってくることになる。
特に今回のようなグローバルなシステムエラーが発生している中では、その対応の差は拡大される。工場が稼働できないサプライヤーは、当然売り上げが落ちる。メーカーが困るだけではなく自分たちも困るのだ。そういう中で「買う」と約束してくれた数量を必ず買ってくれる客がいるなら、どんな手を使ってでも、働き手をかき集め、頼まれた部品を作ろうとする。メーカーのためではない。自分のためだ。危機であるほど真剣さが違う。
もちろんトヨタだって、いらないものはいらない。納品を断ったり延期したりすることはあるかもしれないが、それが自分に跳ね返ってくることを知っているトヨタは、予測の正確さに徹底的にこだわるのだ。この厳しい環境下で、トヨタが過去最高益を叩き出せた秘密はそこにある。
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